第十二話
「殺せなくとも」

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 現在工房で黙々と刃金を打ち続けています。
 ところで、特殊金属の代表格が一つ、活火山の火口付近に稀に採掘される緋色金で刃物を作る時、その緋色金を刃金と呼んでもよいのでしょうか? 地味に疑問です。
 別に緋色金で限定せずとも魔法銀ミスリル、精霊金属オリハルコン、未知金属マダガスカルでも可。まあ刃にする金属なんだから刃金といっても問題ないのだろう。不備はないはずだ。
「腰入れて打てヤアホゥ!! んな軟弱に心で強え剣が作れるか!!」
「ゴ、ゴメンなさぁあい!!」
「口動かす前に力入れろや!」
「はぃぃぃいいい!」
 首を少し横にずらした次の瞬間に鉄鎚が頬の横をかすめる。
 ここは知人の鍛冶師の工房。陽光が特製の木刀を土にかえしやがって武器を望んだので作るのも面倒になったんで作らせることにした。うん、あんなにも面倒なものをさらに一つ作るんなんて本当にだるいんだ。だからこのたび作るだけの技術と工房を一割、暑苦しいハートを二割、頑固さ六割、あと理解できない何かを三割をここの親……女性なのでお袋に借りている。
「全く、アルスメギストスのの鋳造部門のトップはすごいな」
「それに動じず鉄を打ち続けるあんたもすごいさ」
「いや、こんなものは慣れでどうにかなるぞ。第一鉄の位置は変わらないんだから打つ場所を考えるだけで十分だろうが」
「いやいやいや、そこまでなれないって」
 才能のない私がやってできるんだから才能のあるのだから、できることには間違いないんだ。まあそのための努力をしなければならない。もしもそれを怠れば、できるものだって出来ないのは当然だ。間違いない。
「つか、どうやって首を180度に曲げているんだ?」
「…………シリタイ?」
「イエ、マッタク」
 ええ、またです。"また"アルスメギストスなんです。それもやはりということしかできないほどアルフェードのコネで使わせてもらえることになっております。
 アルスメギストスはその品がこの世界に存在するのならば注文し、それ相応の代価を用意すればほぼすべてを取りそろえてくれるから便利なんだ。考える必要がほとんどないほど。
 特にアルフェードはその特異能力を使用して手に入れた脅h……交渉材料をうんざりするほど多種多様に持っているから、無理ではない注文はよく聞いてくれる。まああれだ。たとえどんなに嫌な性格であっても味方にした上で重宝できるなら命を救っておくべきだな。おかげで何かと楽をさせてもらっているよ。
「――そ、それはともかく、ヒイロカネやオリハルコンなんて良くあったな。しかもこんなにも」
「こんなもの、掘れば出てくるだろうが」
「いや、それはそうだけどよ。聞いた話じゃ一生に一回見れたら奇跡なんだろ? 普通それを一度目で掘り当てるなんて人間業じゃねえよ」
「別に、ただ偶然そこにあったから掘り当てただけだ。いや、ある…………まあいいか」
 詳しく言うと都市伝説が現実になってしまったということ。これの規模を縮小し、年月をスキップで飛ばし、全てを超越して現象を顕現させたらこうなる。まあさすがに不可能は無理だが。
「それに、あの辺にはこれらないはずだぜ? そこどうなっているんだ?」
「ないわけじゃない。地質上自然界で生産することができないだけだ。別に地殻変動や隕石、地震などといった特殊な現象によって生まれることだってある。
 ただ、そうだな、俺たちは非常に運が良かった。そういうことだろ?」
「運が良いで済む話じゃねえっつーの」
 陽光を連れて適当に歩いて、たぶんここにあると思って廃坑を掘ったら普通に産出された時はさすがの私も頬を痙攣させた。
 何普通に緋色金とオリハルコンが同居しているの、と周りの人も唖然としていたのをよく覚えている。そんな中、一人陽光だけが喜んでいた。少しは自重というものをその身に知れよ。しかもその帰り道ではミスリルを妖精からもらっていたり。
「と、危ね」
 雑念のせいで流し込んでいる魔力が乱れかけた。
 今扱っている金属、ミスリルは妖精銀、魔法金属と様々な名前で呼ばれたりもする。そのぐらい理解できていない性質を多く持つそれを鍛えるために常に一定量で一定の強さの魔力を流し込み、纏わせる必要がある。もしもこの時に魔力が乱れると、部分的、もしくは全体的に質がかなり落ちる。使い物には、ならないだろう。
 まあ特殊金属の中でその性質が完全にわかっているものなど全くない。今陽光が鍛えて剣にしている緋色金も白く光る程の高温が必要であり、もしあるのであれば使用者の体の一部、とくに血を入れると強くなるという性質がある。
 ミスリルのほうにも使用者を限定してしまうが肉体の一部を混入すると強化される性質があるので、すでに血はもちろんのこと紙を一房のほかにいろいろと混ぜている。当然だ。やらない奴の気が知れない。後世のことなんて考えるか。
「なぁ、いまさら何だけどあんたは今何作っているんだ? 剣、には見えないこともないが、それ剣じゃないんだろ?」
「弓。基本的に近距離から中距離、時に遠距離までの敵を狙撃するときに使用する武器」
「弓?」
「二度も言わすか?」
「金属で? よりにもよってミスリルで? 硬すぎて引けないだろうが。マダガスカル使えよ」
「…………お前が何を勘違いしているのかよくわかった。いいか? これは妖精銀。金属違う。だから大丈夫」
 鍛え方や想いによってその特性を変え、混入物によって性質を変更していくんだから問題ない。そのため合成素材の選択と混入する機会を読むのに神経を削ってくれる。
 そんなことを考えつつも的確に鎚をふるい、ミスリルを鍛え上げる。この貴重なミスリルは緋色金と違い、残りわずか少し。弓一つと少し分しかもらうことができなかった。そのため帰り道の途中、妖精から奪おうかと考えないことができなかった。
「――――ふぅ……」
「お、完成か?」
「一段落はついた。これから加工と調整、刻印に仕上げ」
 弓の長さは1.6m程、和弓ほども長くはないが、洋弓ほど短くもない。全体的に滑らかかつ直線的に仕上がっており、持ち手にはナックルガードが取り付けられている。
 一見では弓と考えにくい。それでもやはり弓だ。いろいろと規格外になりそうだけど。

――――ておい待てコラ。
「15番やすりがないぞ!!」
「そもそも売ってねえよ!!」
 仕上げは25番やすりに決まっているだろうが!
 金剛研磨石もってこい!

 
 
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