第十二話
「殺せなくとも」

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 必要な脇道にそれながらも武芸会の準備を着実に完了していった。それでも完成させるには圧倒的に時間が足りない。
 だが、完成していなくても使える武器はすべて使える。陽光の剣も私の弓もそうであるため、少なくとも武芸会には問題がない。そもそも私は完成を望んでいなかった。ただ加絵の武器を求められたから、それに見合うものを用意できれば良かっただけだ。
 さて、完成の形が見えてきた陽光の剣の紹介でもしようか。私の弓は後回しにしているため、まだまだ時間が必要なので今はしない。
 まずは感想を一言。

――――卑怯だ。

 何がどうとかそういったものを飛び越えて全体的に卑怯だと感じた。私が刻印を事細かに緻密にやりすぎたという点を差し引いたとしてもアレは普通に引ける。特にその性質に。元来彼女が誰かを殺すことを異常なまでに嫌うから不殺剣にはなるのは予想の範囲。作る途中で意識を斬って気絶させる卑怯剣になるのかという二次元平面の幻想の軽く斜め上45°右30°の三次元空間を突っ走ってくれたよ、畜生。
 簡単に言葉に表すとあの剣は――拷問剣だ。傷をつけると同時に高位の治療魔法を自動でかけることにより殺さないという拷問。治療の対価として傷の度合いによっては相手に死にたくなるような苦痛、激痛を与える。気絶の前に悶絶できるぜ。もちろんスイッチは付いている。というか思考でオンオフが変えれるようだ。
 痛覚遮断や元から痛覚なんて持っていない存在――たとえばリビングデッド、ウォーキングデッドなどという死せる者の類及び不死人には効果がない。それでも生物にとって最高レベルの危険信号である痛覚を遮断できる存在なんて最初から狂っているし、そう滅多にいない。
 死せる者には緋色金に備わり、陽光のせいで強化された焔属性と彼女の光属性による浄化の炎で一撃必滅、完全燃焼。塵一つから腐肉臭まで残しません。それ何てチート。これが主人公補正というものか? 世界の修正力を垣間見た気がするぜ……
「これがあれば旅の途中で火の心配する必要がないね!」
「――逆に辺り一面焼け野原になるわ!」
 そんな剣を焚き火の代わりにしか考えない超絶能天気さに脱帽。というよりその発想はなかった。被害が大きすぎると結論したから発想しなかった。もう少し後先考えろ。お前ごときの稚拙な魔力制御じゃ問題が多すぎるんだよ。
 それがしたいなら私並みとはいかなくてもせめて十分の一ぐらいは身につけろ。
「無理です」
「諦め早いな……」
「だってリヒトのそれ、自分をだれよりも何よりもすべてよりも知っている、理解している、わかっているからできているんでしょ? それができない僕には無理だよ」
「お前の場合はできる、できないという問題はないはずなんだが」
「それでも無理だよ〜」
「俺も無理強いはしない」
 無理強いして下手に力をつけさせて対処できないまで行かせてたまるか。その辺りの見極めはすでにつけている。と言っても彼女の場合は不確定要素が多すぎてそのような手まわしも笑って粉砕してくれそうだ。
「それにしても、何だか神々しいね。どうしてかな?」
「あー……心当たりが多すぎてどれから言えばいいのか見当がつかない」
 主な要因は精霊たちだろう。あの剣は普通に人間が作って出すことのできる限界性能をとことん超越しているから間違いない。残り香……音なので残響が残っているから間違いない。何にせよ、関係者各位やりすぎ。反省して後悔して地に這い蹲っていなさい。
「それじゃ、頑張って優勝しろよ」
「えっと…………今回じゃなきゃダメ?」
「そんなことはないが、時間がないな。物理的に突き詰めることになるが……かまわないというのならお薦めしよう。ただし肉体的に死ねることも保証する」
 予選のほうはまあ問題ないとしても、何かありそうなので言えば二戦目からか。別に戦えるのなら獣使いでも出場可なのだからこんな人が出ていてもおかしくない。
「それじゃ、世話になったな」
「おう、お前は二度と来るな。ヨーコはいつ来てもいいぞ」
「来ないと思うぞ。必要ないから」
「…………リヒト、ちょっと表に出ろ」
「出ているじゃないか。耄碌しているな」
 あんな武器を壊す状況を私は考えられない。その前に死滅している可能性のほうが高いだろう。
「元気でねー!!」
「またなー!!」
「……奇麗にできないのは人の性だな」
「…………ああ、俺たちは汚れすぎているからな……」


 
 
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