第十二話
「殺せなくとも」

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 目の前にいる計十六名の筋骨隆々でどうしようもなく暑苦しく、決して近づいてほしくはない連中。彼らは先日会った予選に勝ち抜いた人々だ。もちろん男性だけではなく、何名かは女性もいるが、そこに女性特有の柔らかな曲線は皆無で、生々しい傷跡や鍛え抜かれた筋肉が見える。
 とりあえず具現化された妄想でよくあるきわどい鎧なんてない。己の戦闘スタイルにかなった武装をしている。
 まあ中でも異様なのが陽光・オブ・チートで、これの装備の八……九割方は私が作ったことになるのだが、見た目が世界に喧嘩を売っている。見た目だけはかなり薄そうな最低限の金属鎧(胸部および肩部、両手両足のみ)、腰につけている剣もやけに剣幅が薄いロングソードに見えるがその硬さは洒落で済ませてくれない。予備の剣と短剣はそんなことはないんだが。
「それでは、いい加減に本戦を始めようか」
 かくいう私も正装という名の武装を施している。主だった鎧は見当たらないのだが、履いている靴には鋼鉄が、背に純白の逆十字が刺繍されているマントは鉄線で編まれ、服で見づらいが、広めの袖の下には手甲、つけている装飾品は当然のごとく刻印がなされている。また腰には八凪が長刀の形で据えられ、隠すようにして背にアークがある。
 何せ本戦の監督である私にはもしも選手が故意に殺そうとした場合、それを止めるという義務があるのだから。どのような状況下であっても止めれるようにしておかないと私の命もまずい。
 別にこれは決闘なので殺しはご法度にはならない。日常の中で合法的に殺しができる数少ない貴重な――と言うにあまりに妙だが――場面なのだ。だからと言って殺しを推奨されることも、咎められないということもない。故に審判は彼らの試合を――もしくは死合を止めるだけの技量と度胸と、そして何より公平性を求められる。そういうわけであまり審判になれる人はいない。まあ大概どこかのギルドに依頼される。
「それでは、第一試合の選手は闘技場へ。他の選手はここで呼ばれるまで待機してもらおう」
 勝利条件は簡単。一つは相手が己の敗北を認めた時。一つは審判が勝利を認めた時。一つは相手が先頭続行不可能になった時の以上三点。敗北条件はこの逆。当然と言えば、当然だ。殺害はなるべくしない容易に割れているが、咎められているわけでもない。
 とりあえず、私は決勝以外興味がないのでかなり飛ばして語らせてもらおう。
 第一試合――騎士ジェノム・ドットハイン対旅人ラインハルト・キュベリア。
 両者とも武器は剣であるが、その性質は全く違う。騎士であるジェノムは騎士でよく使用されている片手剣を使い、正攻法で攻めるタイプ。ラインハルトは確かに剣、片手剣よりも少し短い双剣と体術によるコンビネーションで敵を倒すタイプ。どちらにせよ、私なら遠距離大規模魔法で一気に片を付ける。もしくは闇討ちか。ここは正々堂々と戦闘開始前のときに暗器で不意を打って殺すのもいい。
 戦闘開始直後、猛々しい勢いで攻めに入ったジェノム。その顔にはわずかながら苦渋、痛みをこらえる表情が見て取れた。事実その左足をかばうような動きがある。確かに治癒系統の魔法で傷を治すことは可能だが、陽光のような魔力と異常な加護を持たない人たちにとって彼女のように一瞬で治すというわけにはいかない。単純骨折なら二時間程度かければ治るが、複雑骨折となるとかなりの時間を要する。また傷においても血が出ないように止血し、脆い血管を再構築して出血を防ぎ、見た目治っているように見せたうえでゆっくり治すのが一般的。陽光のほうが異常。
 だから、だろう。きっと彼の左足は先日までの予選獲得もしくは予選で追った怪我がまだ癒えていない。だが現実とは常に非情で、そんなことを微塵も配慮してくれない。恨むなら、己の不甲斐無さと運の無さと深謀遠慮の欠如でも恨め。もしくは神でも可。特に神。神推奨。
 まあそういうハンデを抱えていた彼は当然短期決戦を望んでいたのだが、そうは問屋がおろさせない。旅人は騎士よりもかつ結果に執着しているため、わざと逃げて長期決戦とし、最終的に左足を重点的に攻撃して戦闘続行不可能にして勝利したラインハルト。
 第二試合――陽光・オブ・チート対憐れで哀れな一般人
 結果と過程はほとんど省略して、陽光がヒヒイロカネでできた剣に魔力を流し込み、振る直前でレフェリーストップ。何もない開けた空を黄金に染めてもらってから名前も忘れた一般人に敗北宣言を進めた。向こうもあんなバカげた温度で影すら残らず焼け死にたくはないようで(死ねないことは伝えていない)、提案と同時に受け入れてくれた。気持ちはわかる。
 第三試合――からはすべて削除。何をどう転ばしてもただの争い。特筆すべき様なことはない。私も手を出すことがあのチートのとき以外なかったので問題はない。
「リヒト〜」
「コウ……こんな夜分遅くにどうした?」
「えっとねー……剣失くした」
「…………」
――ガスッ!
「イッタァ!」
 ここで殴った私は何も悪くない。というかこいつ、一人では武器の管理も満足にできないのか? それは旅に出た時大問題になるぞ。いや問題以前の事柄だ。今のうちに矯正を……時間がない。
「まずは落としたのか盗まれたのか分からないのかから聞こうか」
「んー、覚えていない」
「なら落としただな」
 盗まれたならこいつはきっと上げたと言うだろう。いやどちらにしても結果は変わらない。
「まあ適当に探してみるが……――――頑張れよ」
「へ? 何を?」
「何って、蒼技祭武芸の部」
「? ……………………??」
 またこいつは自分のことを忘れているようだ。
「優勝しないと死にたくなるような」
「――――……あ゙」
「冥福ぐらいは祈っておいてやろうじゃないか。死なさないけどな」
「どうにかならないのぉ!?」
「抜かせ阿呆。あれを作るのに俺がどれだけの労力と時間と休暇、何より要らん頭を下げたと思っている? それを勘定するとアフターサービスなんて一切付かない。自業自得という言葉をその身に刻んでやろうか?」
「謹んで遠慮します。というかできれば代えの武器がほしいんだけど……」
「魔法があるだろうが」
「……使えるの?」
「そんなものお前しだいだよ。ダリィ」
 新たにワーク”剣を探せ”が追加されました。面倒に違いない。


 
 
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