第六話
「日常風景」


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 レイヴェリックは魔法の基礎しか教えず、ほかのことは疑問があれば応答するといった方法で教える。それはほとんど自学自習に近い。
 私はこちらの方が好ましいので何の問題もない。しかしながらどういうわけか魔法に使う文字や紋章をみれば大体の意味がわかってしまうのでほとんど質問に行ったことはない。
 それに城の書庫の方で調べ物をすればたいがいどこかの書物に載っているので、そちらの方で片をつけられる。その調べ物をしているとおもしろそうだと感じることを時々見つけ、それを後先考えずにやってしまうために時々こうなる。

「………………」
「――……キュー」
 さて、眼前にあるもふもふして癒されたい小動物をどう処分すべきであろうか。今更何をするべきかということはわかりきっていることなのだが、どうしようか。
 どちらにせよ送還させるためはあれをするしか他はないのでやらなければならない。この小動物も使えるのでしても問題はないだろう。
「……呼んだ俺の責任だ。契約、するか?」
「キュア(うん、いいよ)」
 何故であろうか。近頃おぼろげながらも鳥や犬といった動物の言葉までもわかってしまう。いらないようで便利な能力を授かってしまっている。特にこういった知能の高い召喚獣の言葉は明確に聞こえる。私はその小動物を召喚するための方法が乗っていた書物に付随して載っている契約方法にならって小動物と契約した。
 その小動物、召喚獣の見た目はそこらでペットとして売られている小さくて人懐っこい竜種、成竜になってももふもふしており、全長が六十センチほどにしかならないアールティ・ドラゴンに似ている。ちなみにご婦人及びお子様から抱き枕として定評があるほどもふもふしている。
 旧世界で言うなら犬のような存在である。仮にも竜種なのでそこそこの番犬――もとい番竜にはなるということだろう。ただ、人懐っこいため使い物にはならない。
 こちらの方はただ姿がその竜に似ていると言っているだけで全く別種の竜だ。もふもふしているというよりかはふわふわしていると言った方が良いのかもしれない。
「――心に刻め。汝が名は――イクス」
 その言葉は古代語で存在という意味を持つ。これでこの小動物と契約できたことになる。昔暇な時に調べたことによると、私が契約できる召喚獣の数は十三体である。イクスと契約したので残りの数は十一体だ。
 契約破棄ということもできることにはできるが、それはあまりに危険と代償が大きいのでやることを勧めることはできない。
 いやイクスはイクスでかなり強いので契約破棄をする必要はないだろう。本気で使う場面は限られているが、それは念のためとして取っておいても損はない。
 ちなみに、もう一体の方は森を歩いていたら拾ったはぐれ幻獣だ。その幻獣の名はエト、意味は永遠というものである。一時安全な森に送還している。イクスの方も元いたところに戻ってもらう。
 ちなみにここは隠し部屋の一つである。城を散策していたら見つけたもので、利用させてもらっている。
「もうすぐ昼か……」
 私たちがこちらに来た蒼歴687年9月17日から約一カ月が立った。今日はもう10月20日である。適応能力の高い陽光の方もこちらの生活に馴染んでおり、比較的楽しい日常を送っているようだ。
 私もこちらの生活にはかなり前に馴染んでおり、今は色々としている。季節は冬に近くなったので戦争もほとんどない。特にこの前の戦いで酷く負けさせた国があるため、周りの国は様子見をしている。
 この国の内部情勢を探るための間者を時々見掛ける。そういうものは即刻捕まえ、そこらの兵士どもに引き渡しているが、その者たちが有益な情報を持っていたためしがない。そんなにも期待はしていないので困ってはいない。
 こちらも各国の内部情報収集をしているらしく、私のところにそういう情報が流れてくることがある。私も私で商人や情報屋から情報を仕入れているため、割と詳しく知っている。
「あ、エッジ様。こんにちは」
「ああストラ。セインは働いているか?」
「……今捜索しています」
「…………俺の名において、刑罰の代行を許可する」
「ありがとうどざいます」
 ほとんどのやることを終えた私は暇であった。それを見計らって老王が私に働けと命じた。暇潰しにちょうどよいと感じた私は快くそれを承認し、今は少々やり過ぎていた昔の特別執務官を引きずりおろし、その席に座っている。
 特別執務官の仕事はほぼ全てあり、王の補佐をするときもあれば戦争の最前線にも立つ。裁判長になる時もあればただのニートにもなれる。そのくせして基本給はかなり良い。わかりやすく言うと基本月給50万円ぐらい。
 それらは執務官の権限上の仕事であり、本来の仕事はまた別だ。本来の仕事は災害地へといって庶民を救済したり、違法な貴族を取り締まったりなど、そういう仕事なのだ。
 私がこの席に座ってすでに一週間が経とうとしており、既に上級貴族の人数が一割ほど減った。人はそれをやりすぎだというが、使えないどもをいつまでも上に据え置いておくつもりはない。
 そのため、多くの貴族が私に賄賂を贈ろうとしているのだが、当然私が本名でその席についているわけもなく、偽名で登録しているため受け取っていない。その偽名はエッジ。昔使っていた暗号名をそのまま転用させてもらった。この世界にはその頃の私を知る人はいないと思われるのでそれほどのリスクを冒してはいない。
「――さて、何をしようか……」
 陽光の訓練はほとんど他の人に任せている。今はせいぜい三日に一度という頻度でどの程度強くなったのか手合わせをする程度になった。私にもやりたいことはあるのでそちらの方が都合がよい。
 机の上に散乱している紙の塔を適当に崩していく。これらは私の仕事ではないのだが、どういうわけか私に回ってきた仕事類だ。例えば、ある地方で賊が出たから退治してほしいや、歩道が荒れているから整備してほしいなどがある。本当に雑用全般だ。中には極めて重要な案件が含まれていることもあるが、そういうのは滅多にない。
 書類にハンコを押したり、何か書いたりして箱の中に入れていく。前の執務官は非常にデスクワークが嫌いだったようで、書類がたまりにたまって終わりが見えない。これでも割とやってきた方なのだが、どうにも自分の時間というものが取りにくい。いやしっかりと取っているので関係ないが。飽く迄この仕事はバイト。
「エッジ様、少しよろしいでしょうか?」
「――どうぞ」
 うっとうしい書類を片づけていると使用人がやってきた。時計を見てみるとかれこれ三時間やっていたことが分かった。だというのに全く減った様子を見せない書類群がある。
「リリック・ジ・ハストル様から手紙が届いております。どういたしましょうか?」
「何度も言っているだろう。その手の類は確認を取る前に燃やせ」
 人はそれを事後承諾と言う。
「かしこまりました」
 どうしてこうも今の自分の地位を守るため、そして今以上の地位を得るために自分の娘や息子を強制的に結婚させる真似をするのだろうか。私がこの職について次に日あたりから来ている。
 最初来たものに行ったところ、向こうが勝手に既成事実を作ろうとしたのでアークの実験台になりたいと判断し、壊滅的な損害を与えて帰ってきた。もちろんその後平民にまで地位を落とした。
 そんなことがあったというのにあの手の誘いは後を絶つことがない。性欲などというものは欠片もない私にそういうことは無意味だというのに、どうしてわからないのだろうか。
 そう疑問に思いつつ、その日は過ぎた。これから続くものはある日までの取りとめもない私の日常である。

 ふと外を見る。
 腰に提げているアークを手に取る。
 狙撃する真似事をする。

 とりあえず老王――仕事しやがれテメエ!!

 引き金を引くと弾が出た。魔力がまだ残っていたようだ。これは事故である、と。権力万歳。

 
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