第七話
「精霊の歌」
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そしてその日から何事もなく淡々と日が過ぎていった。
私の日常に何ら変わりなく、せいぜい町の周辺に現れた魔獣を退治していったり、そんな魔獣種よりもかなり強く、好戦的な悪魔種を殺したりしたぐらいだ。
悪魔種は魔獣とは違い、人並みの知能を持ち、魔法を使うことができる。そのため少しばかり苦戦を強いられたが、断空斬の本来の意味を持って殺した。
そんなこんなでやって来た12月18日――学院祭の日である。
「……ここだな」
「……学校よりも大きいね」
「全校生徒数2600人強、全十学年あり、現在の最高生徒年齢は25歳、入学は8歳から。貴族と平民は校舎がわかれてあるのは一般的だな。特色は魔導理論学」
この程度は簡単に暗記できる。
「他国と比べてみても割かし上位の学院だ。あとは……向こうに見えるぼろい校舎が平民用。さて、行くぞ」
「あうん。なんだか入院許可書がいるみたいだけど持っているの? もらっているとこ見た覚えがないよ」
「ああ、ルージュの手紙の中に入っていた」
クレジットカードよりも縦幅が大きい硬質のカードを取り出す。ベルクロア家の家紋がそれには載ってある。一応偽造防止はされてあるようだ。刻まれてある家紋はそこの馬車にも刻まれてある。となるとルージュの親類がここにきていると考えてよい。
武器類の持ち込みは……可のようだ。不可の場合? 黙って持ち込む。当然だろうが。
「ルージュが出る発表会の会場があくまであと一時間ほどある。50分したらそこの噴水の前にこい」
「――了解!」
「…………」
陽光は光の如く消え去っていった。訓練中もあのぐらいの速さが出てくれればうれしいのだが、残念だ。そんな彼は屋台の方に向かっていっている。少々多めに金を渡しておいて正解と判断した。
さて私も移動しよう。
少し陽光とは違う方向に行く。学院性が作ったものを展示して販売しているところだ。ただし貴族が作ったものが置いてある場所ではない。知っての通り、私は宝石など貴金属類が過度にあるものや敢えて過度に主張させたものが嫌いだ。
そんなものよりも自分の独創性に忠実に従って作る庶民のものの方が興味を引く。金がないから努力と時間を惜しげもなく作ったものは醜くても目を汚さないのだ。
「……ほぉ――――ふむ、良くできているな」
その中でも特に目を引いたのはオルゴールだ。外の木材は安いものであるが、中はしっかりとした素材を使っている。とにかく部品が小さいので買う量も少なくて済み、コストを抑えられたのであろう。
こういう小さな歯車も自分の手で作らなければならないためオルゴールはこの世界ではかなり高価な代物である。そんな歯車も練成術で作ればいいのではと思うのかもしれないが、そんな事をするためには私並みの魔力制御力が必要だ。
それだけではない。尋常ではない集中力も必要とする。こんな物でも市場に流せば65万クランはつくだろう。
これも売り物らしく、値札がついている。それに値段と名前を書いて、ある時刻になったとき最も高い値段を書いたものが買えるというシステムを採用している。
今書かれているのは7万クラン、法外にも程がある。他の者がそれを上回る値段を書かない理由はその隣にある名前を見て分かった。その値段を書いたものはかなり上流の貴族であるからだ。私には障害にもならないことだが、後で一応釘でもさしておこうか。
「……これなら、まあこの程度だな」
弱い外殻は後でも改造できる。内部も製鋼には出来ているが、少し稚拙な部分も見える。それらを考慮したうえで私が判断した適正価格とエッジという名前を紙に書いて私は場所を移した。
どうせあの家はこのオルゴールを買って売る気だったのだろう。もしも作った人が渋るようだったなら脅してでも買い取る気だったに違いない。今の私の持ち金は100万クラン、この前の悪魔狩りで2000万を超える金額を手に入れたため、金が家で腐り始めている。
本当に技術者というのは大切にせねばならない。後世を担うからという理由もある。他には新たな技術を生み出すからだ。常に新たな技術を求めるのは現場にいる人たちである。買い取りの期限時間は10時40分ごろだ。そのころにもう一度ここに来よう。
続いて武芸科の方に来た。こちらの方は基本的に武芸科生徒による模擬戦闘が主であるため、今あるもののほとんどが出店だ。その出店でも特に多いのは体を動かすものである。もちろん景品も付いてくる。
景品の中に一つ、私は目がとまったものがあった。的あての景品であるあの短剣だ。今のところ剣をまともに触れない狭い路地での戦闘方法が徒手空拳しかない。別段徒手空拳でも困らないことは困らないが、それでもあったほうが良い。
短剣は素材としてはなかなかのものであるようだ。改造すれば使える物になると鑑定する。その短剣を手に入れるためには当然的あてに出なければならない。一回の料金は200クランである。的あてならそんなものだろう。
「…………ふむ、武器自由。勝ったな」
その景品はある一定の時間以内に全ての的を壊せばもらえるというものであり、私にとっては何の苦にもならない制限である。
「――ん?」
「あ?」
どうやら隣にいる老練な武人も同じようにあの短剣を欲したようで、私とほぼ同時にこの的あてをしようとした。不幸なことにあの短剣はあと一振りしかないのだ。そうなるとどちらかしか手に入れることはできない。
また老兵もかなり熟練しているようで、彼が出てもあれを手に入れる条件をクリアするだろう。となると早い者勝ちになってしまう。それはそれで困る。
「――――……」
「――――……」
最初はにらみ合い、相手の技量を深く探った。
どういうわけか周りにいたどうでもいい人たちが後ろに下がっていく。知らず知らずのうちにさっきも放っていたようだ。
――無拍子で心臓を突く
――その豪腕によって防がれる
――後ろに下がってアークを振る
――前に進んで避けられ、槍によって刺突
――刃を当てて進行方向を
エラー
――刃を当ててすぐに引かれて次の刺突が
――意表をついて魔弾発射
――身がすくみ、行動が0.01遅れる。避けられる
――風刃乱舞発動。致命傷を
エラー:殺傷は禁止
――寸剄を心臓に叩き込む。一時的に心臓を止める
――相手の自我意識強度計算……気絶には到達せず
身長の関係上、私が見上げるという格好になっている。所有している武器は槍、表面に出ている皮膚には数多の傷跡、戦いの歴史がある。筋骨隆々と言うより、どこか巨木を思わせる人。無意味に年をとっていないことが窺えた。
「……剣を交えるのもおもしろそうだが、場に合わせてこの的あてで競わないか?」
「ふむ……それもそうだな」
「では先にどうぞ」
短剣を手に入れる的あての制限時間は30秒、壊さなければならない的の数は60。余裕の数だ。だが、配置からして一般的な武人には少々無理があるのだろう。しかし魔法もありなのでそこまで苦にはならないはずだ。
もちろんのことながら的は魔力を喰らうという鉱石でできているため、魔法で壊すことは不可能であるという概念を誰もが持っている。
待っている間、非常に暇な私は老兵に挑発もとい誘いを送った。
「まさか15秒もかかるとは言わないよな?」
「当然だ」
たぶん彼の限界であろう時間を言ったというのに、彼は迷うことなくそれに載った。そうなると誘いを送った私も15秒以内に終わらさないといけなくなる。それでもせいぜい少し面白くなってきたぐらいだ。
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