第七話
「精霊の歌」

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 そうこうしているうちに彼の挑戦が始まった。最初から出てきているのは20の的である。的によっては二重になっており、壊しにくくしてあるはずなのだが、彼はそれも一撃で壊していく。残りの40の的は時間差で出てくるとある。その時間差の間隔は壊した的の数である。
「ほう……」
 槍の突きで衝撃波を起こすとはなかなかのものである。どうして私はこの人と手合わせをして決着をつけなかったのか気になった。
 その理由は少し考えるとわかった。そんなことをしたら被害が大きすぎてこの学院が潰れる。多分始めて二分ぐらいで本気になって収拾をつけられなくなる。で、陽光が混ざってきて……終わるな。
――ゴッ!
「おお」
 何というか、衝撃波の余波がここまで届く。会場には結界が張ってあるために誰も傷つかないが、体が震えた。年のせいか、少しばかり息を乱してあるが、何の支障にもなっていない。
「……ちぃっ!」
 最後の的は円形の会場内の、自分のいる位置から最も遠い場所に出てくると説明書きには書いてあった。そこは槍が届くような場所ではない。そこまでは知って言っては時間(15秒)を超過してしまう。衝撃波を発するには姿勢が安定していない。
 そこで彼は槍を投げた。投擲の才能があるわけでもないが、馬鹿力で投げられた槍は周りの土を巻き込みつつ、その的にかする。それだけなら的が壊れるわけがないが、マッハの時に生み出される衝撃波が的を壊した。記録は14秒21、上々というべきである。
 続いて会場の土の整備が終わってから、私は開始位置に立った。投げただけで音速超えるとか、普通の地面でも保つわけない。
「――アーク・ゲヴェア・ツヴァイ」
 アークに組み込んだもう一つの能力、それはこのように偽体を生み出すことができるというものだ。偽体は本体と少し色が違う。他は同じなので使い勝手は良い。
 問題点は、本体の方を壊されると自然と偽体の方も消失すること、消費魔力量が意外と多いことがある。両方にカートリッジが込められていることを確認し、両手に構えた。このように武器を装飾品にしている者は珍しいのか、周りの観客が目を見開いている。そんなことはどうでもよい。
「いつでもいいぞ」
「……ぁあ、はい。では――はじめ!」
 出てきた20の的に向けて銃を撃った。今のところカートリッジ一つにつき最高25発の銃弾を生成できる。周りに散っていく薬莢は想像しすぎたための産物だ。すぐに光となって消失していく。轟音も硝煙も反動もすべて私の想像の産物だ。
 威力を高めるにはこの方法が最もよかったからこうなっているだけである。想像の産物である証拠に、マズルフラッシュが翠である。翠の理由は私の魔力の属性光が翠、すなわち風属性よりであるという証拠だ。
 銃弾の発射方法はフルオートにすることもできるが、それをするとカートリッジの消費量が激しくなるので基本的にセミオートにしている。
 そう入っても私の早撃ち、狙いをつけて引き金を引くを一度にやっているためかなり早い。
「フッ」
 25発撃ったと同時にロードさせる。見えないところにある的も破壊する。広域探査魔法のおかげで死角のない視界が約束されているため、このようなこともたやすくできるのだ。もちろんのことながら肉体強化もしている。このあたりは当然の行いだ。
 なお今のアークの形はデザートイーグルである。ゲヴェアとシュヴィアトにはいくつかの形がある。それらの形には形が割り振られており、想像したり、唱えたりするだけでアークの形は変わっていく。増殖の方は考えるだけで行われる。ゲヴェアは銃、シュヴィアトは剣の形にしか変化できないが、それでも用途が広がっていった。マシンガンは確かフィアだったはずだ。
 破壊行為があまりに早かったのだろう、残りの20から一つ引いたものが一気に出てきた。
「――アインス」
 基本的な形である銃剣に戻す。偽体も可除する。理由は時間がないからだ。私に体感時間によればすでに12秒が出ている。私が早く壊しすぎたためか、次の今の19の的が出てくるのに時間がかかりすぎていたためにそのような時間になったのだ。本来ならもう終わっているというのに本当に腹の立つシステムだ。
「――天装雷帝
 ――月夜を裂け――――!」
 装雷の第三段階。
 まさかこのような時に使うことになるとは、私もなかなか負けず嫌いのようだ。その能力は体全体に雷を纏うもので、全ての第三段階に共通していることだが、どういうわけか姿形が変わる。
 髪の色が一気に黒から金色に変わり、瞳の色が淡い紫になっていく。さらに耳が鋭く上に伸び、長い犬歯が生える。強力かつ濃密な雷属性の属性力のせいで服も変わっていく。
「――――ア゙!!」
 魔力によって創造された服は緑を基調とするかなり変わった民族衣装と言えば良いのだろうか。肩の部分に布はなく、腕には文字が彫られ、宝石の嵌った金の腕輪が複数あり、指には指環がある。
 腰には宝石が繋がれた金の鎖と紫の腰布が巻かれている。足首あたりには棘のある鎖が巻かれている。服の素材は全て薄い生地であり、頭には龍の角で模したような冠がある。
「――シッ!」
 これが第三段階のようだ。一応は想定していたのだが、これほどまでに変わるとは思ってもいなかった。そんなことはどうでもよい。服も装飾も全て魔力でできているために動きにくいということはないので問題はない。
 それよりも問題はこれを維持するために必要な魔力量だ。今までの"装雷"などの魔法に比べて異常に必要なのだ。それでも"装雷"はほかのものとは違い、もっとも使いやすい第三段階なのだ。それは"装雷"特有の性質のためである。その性質は――――
「――……ふう」
――ガキャァァァアア……ン
「ラストっと」
――キン!
 ――超加速。
 時を止めたと思えるほどに加速する。そのために実質消費する魔力量はかなり少ない。それでもかなり消失間があるのは否めないが。
 第三段階のおかげでこの20の的を一刹那秒以下の時間内で破壊する。最後の的は出てき始めたところを切り捨てた。それから元に戻る。観客には視認できない速度で行使したので気付かれない。ただこの会場に異常なほどの雷属性の力が残っているので不思議には思うだろう。
「12秒……01」
 瞼を開けていたはずなのに見えなかったことにより驚いたためであろう、反応が少し遅れていた。それでも時を計る精霊というのは正直で、私の記録をきっちり計っていた。
「俺の勝ちだな、老兵」
「…………先ほど、何をしたのだ? わしの目でも何も見えんかったぞ」
「少し、異常な強化魔法をしただけだ」
 纏装魔法も強化魔法の亜種である。強化魔法は基本的に使った本人や武器を強化する。しかし、それに属性力をつけることができたとしても属性の特性を付加することができない。また私自身も一つも武器や肉体を強化した覚えはない。
 ただ――属性と同化しただけだ。アークがなかったなら思いついても完成にこぎつけなかっただろう。アークを作った人は本当に偉大だ。もしも墓場を見つけたら冥福ぐらい保障してあげよう。
「アレを強化魔法というか。面白い。お主、名は?」
「リヒト、人は俺のことをそう呼んでいる」
「リヒト、いつの日か手合わせ願いたい」
「ああ機会があればな。その時は酒でも用意しよう」
 私は短剣を受け取って詳しく解析をした。素材としては一流のものであるが、これで使うには些か脆弱なものだ。たぶんどこかの遺跡で見つけたものであろう。
 長時間魔力が濃い場所にあったため、このように素材としては一流となったと推測する。素材の価値は時間とその物に左右される。元が悪くとも数千年の時を過ごさせれば一流になるということだ。本当に練成するには十分な優先度である。

 
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