第二話
「旅立ちはまだ遠く」


<5>



 一般的なものとやや変わっているが間違いない。基本的な構造は同じであるだろう。
「――銃だ。ただ使用する弾が違うようだな。普通の銃弾ではなく…………きっと魔力だろう」
 散弾銃などでよくある中折れ式の銃のような作りをして、グリップの付け根の両脇には宝石が付いている。触り心地と見た目でこの宝石は琥珀であることがわかった。しっかりと取り付けられているため外れそうにはない。銃身はだいたい30cm弱、見た目はわりと細長く直線的にできており、まるで一昔前の先込式単発の銃のようでもある。
 全体的にほぼ直線的ではあるが、グリップのところが少し湾曲しているため厳密にはまっすぐではない。この銃身に取り付けられているフォアエンドに刃をつけてもよさそうだ。またグリップは片手で持ちやすい削りがなされているため、これはだれか隻腕の人用に作られたものであろうと推定される。まだ改造の余地がある所がなお良い。
 簡単にいえば、この銃は改造によっては切る用途も含めれるということである。ここのところに刃をつけたら十分な片手剣となろう。
 しかしそれらは私にとって関係のない話だ。関係があることといえばやはり使えるか使えないかということである。
 なので早速先ほど言霊を使用した際に掴んだ体内を巡る魔力の流れを変える感覚を再現し、宝石に流し込んでみた。宝石は私の魔力をすんなり吸い込んでくれている。ある程度溜まったと感じたので、そこにある箱を狙って軽い引き金を引く。
「――おお」
 意外と心地よい反動があった。そして撃たれた箱の方はというと、まるでハンマーか何かで殴られたかのように後ろの方に吹き飛んでいく。地面に落ちる前に続けて流れが一点に収束するイメージを持って引き金を引くと想像した通りに貫通した。
 やはりこの銃は使用者が考えていることに少なからず左右された魔力弾を射出するようだ。それはかなり便利である。私はこれをもらうことにした。
「エル、これ貰うな」
「勝手に持ち出さないでください! てあげませんよ!」
「誰も使わないならいいだろうが」
「ウ……」
 使えるものは使うという精神により、こういうふうに死蔵されているということは"使える場合はどうぞ自由に使ってください"という意思表示に見えてしまう。
 私は貰った銃を頑丈な箱の中に入っていたホルスターに入れて携帯する。ホルスターはベルト状になっており、ちょうど銃が背中の方の下あたりに水平より若干斜めに傾いて来るようになっており、右手で簡単に出せれるようになっている。存分に取り出しやすく、非常に使い勝手が良い。これの製作者の好感度が上がったな。
「叱られるのは誰だと思っていらっしゃるのですか?」
「俺ではないからどうでもいい」
「…………死んでください」
「老王には一言言っておく。それでいいだろ?」
 この台詞の意味は私があの王を直接的に"話し"をつけるということだ。そのことに気づかない彼女は一応納得してくれた。あの王、フェイタルはなかなか爺不孝な孫娘を持っているようだ。
「それはそうと、その服はどこで手に入れたのですか?」
「その辺にあったのを拝借した」
「…………泥棒という言葉の意味を知っていますか?」
「お前よりも知っているが、それがどうした?」
 彼女が何を言いたいのか大体分かるがなんとなく聞いてみる。
「あなたはしたことは泥棒ですよ」
 やはりそれであるか。一応、今の私はそれについては反論できるのでしておく。
「では、あの部屋のどこにこのような服がある?眠っていた俺にわかるというのか? わかる手段があるのか?」
「仕方がないですね。今回"は"見逃してあげましょう。しかし今後は枕元の台に置いてある呼び鈴を鳴らせば使用人が誰か来ますから、今後はその人に頼んでください」
「呼び鈴とは、これのことか?」
 リィンという音を出す鈴を見せる。見せるだけでなく、その鈴を鳴らして見せた。しかし当然のごとく誰も来ない。なぜなら使用人たちのほぼ全員がこの部屋の前に屍化しているからだ。
「あのような場所にほぼ全ての使用人がいたが、誰がこんなちっぽけな鈴の音に気づく?」
「…………」
 壊れた扉の前にいる使用人は我関せずというふりをするか物陰に隠れた。それを初めて見たようであるエリュシオンは唖然としている。もっと早く気づいてほしいものだ。
「あなた達! 責務を放棄して何をしているのですか! 解雇しますよ!」
「…………」
――ゴスッ!
「――イタ!?」
「俺の耳元で叫ぶなアホウ」
 彼女の頭に手刀を入れる。耳元で叫ばれたのでかなり聴覚が麻痺した。このようなことをする私の気持ちがわからないこともないはずである。
 彼女が頭を押さえて正面を見れない間に使用人たちは各個人の持ち場に逃げ帰った。その様子は蜘蛛の子を散らすようであった。ある者は他者の上を行き、またある者は他者を生贄に仕立て上げようとする。真に見苦しいという一言に尽きてしまう。
 なぁ、あいつら先ほどまで屍だったよな……? 近頃力加減が間違っているような……いやこちらの生物が無駄にしぶといだけか?
「申し訳ありません、ヨーコ様。見苦しいところをお見せして」
「僕は気にしないよ。でもさ、謝る相手、間違っていない? いや間違っているよ」
「――え?」
 これ(先ほど手に入れた銃)などで少し遊ぼうかと考え中。例えば"この銃の威力を知るための実験台になってもらう"や、"あるであろう恥ずかしい過去を暴露させる"など。人の弱みは握るものであっても決して握られるものではない。
 そのような不穏な空気を感じ取ったためにか、エリュシオンはこちらを向いたまましばらく固まった。
「…………ごめんなさい」
「何を詫びている?」
「あなたを泥棒にしたてあげ、わたくしたちにある責任を押し付けたことを、です」
「盗んだことは事実だ。お前が詫びることではない」
 そのことに関しては両者に非がある。その場合は両者に非がないことと同じ扱いだと考えている。本来なら私も謝らなければならないことだが、この際不要であろう。
 私たち三人は暫定的に決まった今後の予定を老王フェイタルに受諾させに行っている。またこの銃をさらに調べてわかったことだが、銃としては珍しくこれには銘がある。銘はグリップの当て木の内側に掘られていたため、手に取っただけでは分からなかったが、分解したときに知った。その銘はアーク。とりあえずこの世界の文字の一種は読めることが確認できた。今現在は私がアークをもらう許可を取るついでに使徒の旅立ちの延期を許可させに、あの老王がいないとおかしい執務室に向かっている。

 

 
 
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