第四話
「力の代償」


<1>



 敵国の行動目的が分かり、それに対する作戦が決定した次の日の朝になった。
 私はいつもどおり朝早くに起き、アークの改良の下準備をする。アークは近距離に考えたくないほど弱いのでその点を敵が出現する前に強化したい。
 とはいってもすぐにできるわけではない。まずは老王の権限を行使し、望む材料を手に入れる手配をした。工房はあるので問題ないが、私が望む材料がかなりマイナーなためにこの城の倉庫にはなかった。昨日レイヴェリックに頼んでおいたのだが、入荷するまで一カ月はかかるらしい。マジでショボンだな。
 正直そんなにも時間がかかるなら間に合わないだろう。ここから北の関門まで約二日半、それから陣を引くのに一日、それらが完了してからやっと攻め込めるが、その戦が終わるまで向こうが待つわけがない。
 なので、仕方なく別の材料で耐えることにした。魔力耐久力の面で不安が残るが、それは仕方がない。注意して使っていけばよいだけのことだ。どうせ一時凌ぎ程度にしか考えていない。
「さて…………」
「フミュ……にゃぁあ……」
 極楽浄土の極地に逝っているような寝顔で堂々とまだ寝ているバカを起こそう。すでに日は十分に上っているのにまだ寝むれるという私にとって異常な彼の精神にあきれを感じつつ、私は彼にエルボーをかました。
 こうでもしないと昼間まで起きないことは中学の修学旅行で学習した。ベッドの木材が不気味にきしんだが、この程度で死ぬほど彼は軟弱にできてはいない。むしろ人としては如何なほど頑丈だ。
「――カハッ! ……ゲホッゲホッ」
「よ、やっと起きたか。もう6時だぞ」
「……なんでぼくのお腹はこんなにも痛いの? て、まだ6時なの? 8時起きじゃ無かった?」
「知らん。そうだ。いつの日の話だ?」
 鍛錬が足りないせいかもしれない。そんなことはどうでもよく、私は彼に着替えをぶつけた。
「俺は先に朝食を食べておく。お前もさっさと来いよ」
「うにゅ。わかったのです〜……クー」
「……装纏完了――フレア」
――ズギュゥゥゥン!!
「ひぎゅぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」
 死にはしない。この程度で死ぬわけがない。大体この銃による私刑を受けたのは彼が二度寝をしようとしたせいだ。あくまで自業自得である。それに昨日後悔させると言ったはずだ。
 それほどやるべきことがあるというのに八時起床などと甘ったれたことを許せるわけがない。第一、今日の私の睡眠時間など五時間とだいぶ長い。いつもは大体三時間半眠れるか眠れないかというところだ。その分、昼寝と仮眠をしっかり取っているので問題ない。
 私は朝食を食べるために食堂へといった。あの、重臣や将軍、高位の王侯貴族専用の食堂の食事も確かにうまいのだが、あの空間が嫌だ。その上そこはテーブルマナーに非常に煩く、その場にいる方々は私にとって気に食わない精神の持ち主ばかりだ。食事ぐらい好きにさせろ。
「で、ここにいるというわけか?」
「ま、そんなところだな」
「……確かに、あそこでの食事は精神的につらいものがあるが……お前が一度もそこに行っていないというのはいいのか?」
「コウがいるから問題ないだろう。俺は所詮お飾り的な存在、もしくはあいつが潰れたときの代替物だ」
 今いる場所は兵士用の食堂。
 味付けは庶民のそれだが悪くはない。材料もそれなりのものを使っている。環境もこちらのほうが断然いいのだが……どうしてここにカイエがいるのだろうか。彼は高位の貴族の出であり、さらには六軍将軍の一人だ。彼こそ向こうの食堂にいるべき人だろう。
 そう考えつつ、牛に近い何かの肉を強めのスパイスをつけて焼き、ライ麦パンで挟んだものにかぶりつく。兵士らが朝から割としっかりしたものを食べるのは訓練がかなりきついからだろう。兵によっては深夜から訓練がある。
「それ、形状が変わっていないか?」
「ああ、改造したからな」
 アークに改造を施し、銃弾を計四発こめれるようにし、さらにはセミオートにした。銃弾の装填方法は中折れ式をとった。薬きょうの排出方法は後ろにスライドして薬莢を排出する方法を取っている。大体の動作は魔力を流すことによって行えるので片手で扱える。
 今後ネフィリムに掛け合って素材の費用を捻出させていたり、老王を"交渉"して違法材料の不法入国を許可させたりしなければならない。
 食事もとり終わった私はここにいる必要もないので、レイヴェリックのところに行く前に陽光を捕まえにいった。アレのことだからテーブルマナーでいろいろと文句を言われているだろう。おもに使用人とエリュシオン辺りに。
 それは予想通りだったので、無理やりに終わらせた。テーブルマナーは夜にやればいい。日が昇っているうちにしかできないこともあるのだから、そちらを優先する行動をとってほしいものだ。
「……以上から自分に合った属性を知るのは大切なことなのです。わかりましたか?」
「な、なんとか」
「今日のところはこのくらいにして、精霊の召喚方法を実践しましょうか」
 私は横で本を読んでいる。こういうことは本を読んで知識を入手しているので、また習う必要はない。私としては実践するほうが望ましいが、陽光が今まで何をしていたのか問いただしたくなるほど無知なので仕方なく基礎知識を植え付けている。それもやっと終わり、ようやく実践に入れたというところか。これで魔法が使えるようになる。一応、魔法については別の用紙にまとめておくのでそちらを参考にしてもらいたい。
「と、その前に自分がどの属性を扱えるのかを調べましょう。これは今後の修行にかかわる大事なことですよ」
「はーい」
「ではこちらの魔法陣に入ってください」
 紋章魔法で描いた陣がある。いつの間に、というのは先ほどだろう。紋章魔法なのでタイムラグが少なく、発動すれば間違いのない効果を生み出す。陽光はその複雑な人の中に入った。
「では行きますよ。
 我は求めしもの、知を望みしもの。
 我が声に従ひて、ここに在りし調べを奏でよ」
 解析、RPGで言うアナライズに当たる魔法だ。本来は未知の魔獣や魔物に使ってその弱点を知るために使うが、このようにその人が使える属性を知るためにも使うことができる。
 ここの世界では加護を受けていない属性の上級魔法を使うことは不可能だ。故に一般的に使える属性はせいぜい一つ二つが限度。レイヴェリックや強力な魔法使いは精霊から後天的に加護を受けるなどして地水火風の属性を扱えるようになっている。
 ただし光や闇は先天性しかないので使えないそうだ。ただ、初級から中級の上位までの魔法は加護がなくとも扱える。その程度の魔法に必要な属性力は魔力を与えれば貸してくれるようだ。
 なお、後天的に加護を受けるには精霊に気に入られたら良いだけである。それがまた難しいのだが。それでも、やはり元から加護を持つ属性が一番使いやすいのは変わらない。で、結果はというと――
「……光ですね」
「そうだろうな。ただここが気になるな……」
「たぶん、まだ覚醒していないだけでは? 時々複合属性を持つ人も居ますから」
「ああ、なるほど……いるな」
 空中に浮いた陣によって示されるのだが、陽光が出した値は明らかに光属性に傾いている。他に今現在わかることは火属性の加護もあるということだ。私は計測しない。自分でも知っているのでする必要もない。

 
 
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