第四話
「力の代償」


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 何があってもよいようにと軍の訓練場を一つ借りて練習をする。光属性は暴走するとかなりの破壊を発生させるらしい。私の安全性は保証されていないということだろうか。それとも自分の身は自分で守れという粋な心遣いだろうか。
「第八位の精霊を召喚するにはそんなにも複雑な術式入りません」
「レイ、その口調はうっとうしいから元に戻せ」
「わかったわ。精霊を感じることができるなら第八位の精霊を召喚することぐらい簡単よ。感じないなら諦めて正攻法をたどるしかない」
「というわけで、コウ。必ず精霊を感じろよ。感じなかったら感じろ」
「無茶言わないでよ〜」
 私はもうすでに感じている。なので適当に先に進んでおこう。
「では何から教えましょうか……」
「刻印術と練成術からだ。改造するにしてもそれが使えないと話にならない」
「了解」
 練成術は物質の形を変えるのに使える。戦闘中に練成術によって武器をダメにされるのを防ぐため多くのものには固定化の魔法がかけられているが、素材関連ではそういうことはない。
 刻印術は物質に刻印をし、力を流すだけでその刻印の意味を発動させるというものだ。今つけているペンダントもその技術によって意味を孕んでいる。
 あることをしようと思ったならその二つの技術が必要となった。物質に魔力を込めるだけなら普通に押し込めば何とかなるが、そんなものはつまらない。
「練成術に術式はないわ。必要なのは思いと魔力のみね。確かに精霊の力を借りているけれどあなたなら問題ないでしょう」
「まあそれを言ったらおしまいだろうが」
「フフ、そうね。でもそんなこと言ったら刻印術もそうなのよ」
「あ、そ」
 といっても、見たことがあるからわかるだけでそれができるとは限っていない。アークで適当にそこらの物質を小さく壊して思った形にしていくことにした。
 刻印術はというとそこらの石に爆発の刻印をして、魔力を込め、投げる。宝石類のほうが刻印できる量が多いが、そんなにも多くの情報を刻印するわけでもないのでそこらの石で事足りるのだ。簡単な手榴弾と思ってくれてかまわない。
「……上出来。もう教える必要もないわ。あとは慣れるだけよ」
「向こうはまだまだ時間がかかりそうだしな……基本的な魔法を教えてもらおうか」
「口頭で伝えるのは面倒なので……確かここらに……あ、あった。これに私が知る限りの魔法の陣を書いておいたわ。記憶したら燃やしてね」
 記憶したら燃やしてくださいと言うあたりからこれにはオリジナルも含まれているということだろうが、やはり書かれているのは詠唱と陣と魔法名のみだ。
 これだけでは詠唱魔法しか使えないが、私をそこまで甘く見ないでほしい。陣の各紋様の意味は既に覚えている。後は詠唱部分さえあれば確実性を持った答えに行きつく。ということで、まずはその本に書かれてある内容を暗記しだす。
「…………」
 多くの情報が私の頭に叩き込まれる。このことを書いたところで翻訳できないのは目に見えていることなので、陽光の現状でも記していこう。
「センセー、まったく感じません」
「おかしいわね……そこに精霊はいるのだけど……」
「ふみゅう」
 私はこんなにも離れた所にいるが、それでも外気の温度が上がっていると感じるほど彼の周りには精霊が密集している。それなのに感じないとはどういうことだろうか。
「もう一回してくれる?」
「はーい……」
「……おかしいわね」
 そのうち実体化が起こるのではないかと思うほど彼の周りには精霊が集まっている。しかし実体化できないのはひとえに彼が魔力を放出できていないためである。あのあたりに発火温度の低い可燃性物質を運んだら自然発火すると思う。
「ウヴー」
 もう半泣き状態になりおった。せめてそれぐらいは一人でできてもらいたかったが無理なようだ。私は大体の原因を分かっているので仕方なくこの本を脇に抱え、彼の近くに行った。これから先に行ってもらわないと話にならない。いや話が出来ない。
「レイ、お前も原因ぐらいは分かっているんじゃないのか?」
「いえ、ちょっとわからないわ」
「こいつ、精霊がいない環境をまだ味わったことがないんだ。つまり今の状態が普通。愛されすぎだろうが」
「……そんなことがあり得るの?」
「あり得る、あり得ない以前にそうなのだから仕方がないだろう。というわけでコウ」
 陽光の肩に手を置く。もう片方の手にはアークが握られている。この銃は強度において問題ないほど丈夫に作られているのを改造していたら知ったので乱暴に扱ってもいのだ。魔力を込めて放てる量に上限も下限も存在しない武器、それは当然国宝行きだろう。
「えっと……何?」
「死なない程度にするから安心して気を抜いとけ。まあ少し痛いかもしれないが、我慢しろ」
 陽光から魔力を吸い取る。そういう術式は既に理解し終えた。人から吸収した魔力というものは減少が生じるが、ほとんどを利用できるので、魔力が枯渇した時のために従者を持つという腐った外道的魔法使いというのは存在する。そういう目的に選ばれた従者は高い確率で魔力が枯渇して死ぬ。
 陽光から吸収した魔力を銃に装填し、周りに波動として放つ。人に害はなく、破壊力すら存在しない純粋な魔力圧だ。私がしようとしていることにいち早く気づいたレイヴェリックは急いで結界を張り、己を守った。
 こんなにも至近距離で絶大な魔力の波動を喰らったら、いかにその攻撃が無害とは言え気が狂うのは請け合いだ。精霊はこんなことでは死なないが、魔力の塊である彼らからしてみてこれは物理攻撃といっていい。
 そのため彼らは遠くに吹き飛ばされ、あたりから一匹残らず精霊がいなくなった。
「ねえ、何かさっきより閑散としていないかな?」
「精霊が一匹残らずいなくなったからな……そう感じるのも無理ない」
「あの人たちが精霊だったの?」
「……十分に気付いてんじゃねえか!」
 余計な苦労をさせられた怒りをぶちまけるためにアークを打ち放ったのだが、彼が精霊の存在を認めたことを喜んだ精霊が弾道をそらしやがったために当たらなかった。陽光の望みをいとも容易くかなえたようだ。
 今後はもっとこう威力か、はたまた精霊を退けるものを放たなければならない。それから、魔法の基本である精霊の召喚、精霊から属性力をもらうこと、魔力の扱い方、初級魔法、簡単な肉体強化などを習わして体得させ、その日の午後は全て基礎鍛錬にあてた。
 次の日筋肉痛間違いなしというところまで鍛錬をしたら知識と常識を与えたりなど、私の就寝時間は夜の十二時を上回った時だったのを記憶している。彼の就寝時間はその一時間以上前だ。

 
 
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