第四話
「力の代償」


<4>



 そんな火球を完全に防ぐことができた陽光はさらにへばっている。私はその光景をクッキーを頬張りつつ眺めている。
「こ……」
「……故?」
「……僕を殺す気!?」
「――やっとまともに精霊を制御できるようになったか。全ての魔法の基本は如何して精霊を従わせるかにかかっている。今の感覚を忘れないように」
「僕の話を聞けぇ!!」
 後ろで光の嵐が起こった。どこかの銀河にいる歌手のような光景と重なった気がしたが、気のせいだよな?
 指を鳴らし、さらに精霊を従える。属性は火。これから詠唱を付け加えると魔法になるのだが、そこまでは必要ない。慣れた魔法使いは一々精霊を召喚しなくともいいのだが、私たちはそこまで世界に順応していないのでそうもいかない。
 ただの火の因子を収束させている。火の矢、わかりやすく言うとファイアボールはこの塊に追尾性を付け加えたものだ。爆発もしないが、喰らったら痛いどころでは済まない。火傷はないようにしてあるが、身を焼かれるような痛みは残してある。
 私はそれを何の行動もせず、思念だけで放った。この圧縮量なら爆発音がすごそうだ。
「いきなり!?
 ――集え、光よ! 剣となりて敵を切り裂け!」
 ほぉ、概念"切断"を有するために火も切れるというわけか。アレは"光刃"という光の初級攻撃魔法だ。原理としては光の熱エネルギーを切断エネルギーに変えているだけだ。利点はかなり早いことか。展開速度は遅い分対処はできる。しかしそれは光のため発動と着弾はほぼ同時と思ってよい。ちなみに闇属性は光属性と同じぐらい早い。
「――蒼を抱きし水精に我は命ずる。ここに集いて走れ」
 圧縮した水の瀑布だ。指向性を持たしてあるので円柱のような形をしている。滝に打たれる修行のほうが天国に思えるような攻撃である。その上これはかなり冷たい水なので正直痛い――らしい。
 力の込め方によっては石も貫くとある。そこまでやったことはないので何とも言えないが、不可能ではない。
「――楓、華を結べ」
 これは私が編み出した魔法で、全てのものに問答無用で雷を纏わせる。消費魔力の少なさと使い勝手の良さが気に入っている一品だ。
 しかしさすがに絶縁物質には帯電させにくい。少々力を強めれば纏わせることも可能だ。ただし、魔力を注ぎ込み続けなければ最初に使った魔力が切れると同時に雷も消える。
 水属性と風属性は相性が良いので問題ない。相性が良い即ち合成魔法を作り上げやすいということだ。
「光の名のもとに火よ、集いて守を持て!」
 光を元に親和属性の火を従えた。親和属性はこういうことも可能だが、それは光と闇に限っている。上の者が下の者に命令することは可能だがその逆は不可と思ってくれてかまわない。そういうことである。
「……バカ?」
 親和属性の召喚は結構遅いと教えた覚えがある。確かに光属性と火属性の合成魔法は初球からでも強力な防御魔法にあふれているが、着弾前に防げないなら意味がない。
(……なるほど。しかし詰めが甘い)
 発動にかかる時間を即座に召喚できる光属性の盾で稼ぐ。戦法は良いが、私なら概念"切断"の光刃で切断、そして結界の中に入れて封印する。そういう方面にかけての光は初級から充実しすぎている。私は脆弱な光の盾に構うことなく水弾を六つに分かれさせて襲わせた。
「見極める目が必要だな」
「ギャヒン!」
 ………………起き上がらない。陽光は力尽きたようだ。
 どうする?
  起こしに行く→止めを刺すに
  止めを刺す→アーク・フルドライブの餌食に
  レイヴェリックに任す→意味無し
 → 放置する→思考から除去

 冷めかけている紅茶に火の精霊を放り込み、もう一度温めなおした。魔法は本当に便利だ。ちなみに第八位の精霊のことを私たちは良く因子と言っている。
 クッキーの程よい甘さがまた良い。魔力を使うと極度に眠たくなるがそれは精神の疲労が原因なのでこういう糖分を摂取するといくらかは回復できるそうだ。陽光はもうしばらくするときっと蘇生するだろう。
「あなた方の成長速度にはたびたび驚かされるけど……その卑怯なまでの魔力量は何?」
「……才能か何かだろうな。仮にもあいつは使徒なのだからそのぐらいはあってもいいだろ?
 それ以前に、俺の魔力量はお前よりかなり少ないぞ」
 魔力総量は一生でそれほど変化することはない。血反吐吐き続ける訓練をし過ぎて何とか少し増えたのかなという程度しか変化しない。
 故に魔法使いは後天的才能、努力よりも先天的才能のほうを重視している。一応、陽光も彼女も歴代の魔法使いの五本の指に入るほどの才能を有している。私はこの中で最も魔力総量が少ない。
 ちなみに魔力総量は許容量で決まる。平均的にはレイヴェリックが最も高い。陽光は許容量が高い。私は技術力と制御力が神並みに高い。レイヴェリックが魔力で暴走するほどの魔力量を私に与えられても何ともないほどだ。故に私は多くの魔力を制御できる。
 他にも常時回復量というものがある。これについても私はかなり高いため、魔力をかなり消費してもすぐに回復できる。なのだが、許容量が少ないのですぐ満タンになってしまう。
 近頃の午前中はずっと勉学に励ませ、午後はこんな調子だ。
「それにしても、何もないわね……」
「ああそうだな。不気味なぐらいに何もない」
 来るのを待つという戦法も嫌いではないが、それしか選択肢がないとなるとまた話は別だ。
 紅茶をまた一口飲み、クッキーを頬張る。そうしつつ本を読んでいく。こちらのクッキーは妙な化学調味料やらを使ってないので安心して食べることができる。サクリとした歯ごたえが非常に好ましいクッキーだ。いったい誰が作ったのか気になるのだが、まあそんなことは別にどうでもよい。
「よく食べるわね」
「リヒトは割と甘党だからね」
 いつ回復したのかわからないうちに回復した陽光が近くの手すりにいる。
「ここは三階のはずだが、強化できたのか?」
「いや、光で足場を作ってきた」
「……慣れてきたな」
 確かに魔力の残滓が感じられる。こういう使い方もあるのだなと思ったら、昨日私が行った移動法だったことを思い出した。
 因子は属性なら持っているが特性は持っていない。よってどんな形もとれるというわけだ。たとえばこのように。
「ねえ、リヒト。その針は何?」
「……動くなよ。狙いが逸れる。眉間に当たっても俺は保障せんぞ」
 これは棒手裏剣と呼ばれるものだ。風属性の因子から作り出した。術の威力は最弱の風属性だが、発動から到達までにかかる時間は光属性、闇属性と雷属性に続いて早く、また起動から展開にかかる時間、展開から発動までにかかる時間は全属性中最速だ。
 よって、全属性中最速の属性とうたわれている。私は手に持つ三本の棒手裏剣を投げた。

 
 
←Back / 目次 / Next→