第四話
「力の代償」


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 作戦五日目……
 収穫はなし。二日後には収穫祭がある。陽光は祭り好きなのでそわそわしているが、それに行っても良いほど彼は使い物になるのだろうか。
 ちなみに、ここに来たのは旧世界の言い方で表すと9月17日である。一月は30日計算、一年は十二カ月、計365日だ。日本でいう元旦と大晦日を間に含む計5日間はシュルスの月としてあるため、このような日数になっている。
 故に今日は9月29日だ。収穫祭はちょうど10月1日であり、時期的にもそんなものである。祭りになるとこちらが不利になるのでさっさと来てほしいのが現状の願い。

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 作戦六日目……
 朝早く――明朝前の四時ごろ――から陽光に明日の収穫祭を一緒に行こうと誘われた。意外と彼は使い物になったので了承した。
 その日の朝早く、私のもとに吉報が届いた。吉報の内容はセイン将軍率いる軍が敵に二日前に勝利したということだ。敵国の将軍は捕獲することができたのだが、レイベルク補佐官は逃してしまったことは痛手だ。
 捕まってもそうでなくとも、打ち首か左遷は免れない。何よりさっさと勝利してくれてありがたい。これのおかげで潜入している敵は出てこざるを得なくなった。結果としてはそれほど良くなく、自軍の負傷者1576名、死者472名だそうだ。損害が大きすぎる。
 セイン将軍の第五軍の総兵力のうち、5千しか動かせないということではないか。それほど多い敵であったのだろうが、もっと損害を少なくする方法はあったはずだ。そして遅い。……良し、帰ってきたら祝杯代わりに殴ってやろう。

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 状況が一変したことにより私は急きょレイヴェリックと落ち合い、陽光専用武装を作った。基盤となる素材は木剣であり、それに可能な限りの刻印術と強化を行って陽光に渡した。
 この武器は物を切ることが不可能なこと、質量、重量が木と全く同じであるという点を除けば真剣となんら変わらない木剣である。
 物は切れなくとも剣を折ることも、相手を撲殺することも簡単にできる。最低条件が剣で切れない、折れない、魔法を喰らっても壊れないだから結構な強度を誇ってしまった。というか、作り終わった後二人で引いた。
 うん、あの時あの場に止める人がほしかった。
 ついでに私はそれまでしたことのないこともしてみた。私は特殊術式と呼んでいるものであるが、それは魔法であり、この世界のはまだ作られていない魔法である。どういうわけか、私は使う紋章、魔法文字をみるとその意味や構成内容がわかってしまうので新たに作ってみている。
 そういうものの一つにすべてに雷をまとわせる低魔力で可能な"装雷"がある。通常の雷属性に比べて消費魔力量が半端なく低く、おまけに扱いやすいうえ用途が広い。単純な術式のため一度教われば誰でも使えるお手軽さもよい。ランク付けするなら、初級魔法だろう。
 ちなみに雷属性で初級魔法はいまだかつて存在していない。他の上級属性おいてもすでに似たようなものを作ってあり、それらは状況によって使い分けている。中でもある意味卑劣なものは重力属性である。相手が攻撃を避けようとしても引力のせいで引き寄せられてよけられない上、簡単に引力と席力の切り替えができる。正しく攻防一体の魔法であるが、あれらの中で最も消費魔力多く、制御が難しいものでもある。
「――っとに、好ましくない状況だね」
「確かに。まさか上から来るとは……考えていたが成功率が低過ぎて破棄していた。もう少し城を調べておくべきだったようだ……」
 現実逃避終了。
 今現在私たちは12人の敵に囲まれている。元は20人ほど来ていたのだが、反撃をしてこの数にまで減らした。陽光のせいで私も敵を殺せない。
 そのためさっさとけりをつける、アークによる敵の一掃ことすらできない。それ以前にフルドライブの存在を知られてそれを封印されたよ全く。確かに身体への反動、負担は大きいが、気にするなよ。
 また相手の対物理障壁が固くできているため、戦闘続行不能にするのにも苦労している。そんなことよりも問題な存在はというと。
「おいそこの無能。お前も戦え」
「肉弾戦は畑違いなのよ」
 相手にわかりやすく言えばジャミングの魔法をかけられて魔法が使えなくなって村人F以下の存在にレイヴェリックだ。
 その魔法を分かりやすく言えば体外に出る魔力の流れを乱し、対象に魔法を使わせないというものである。私も陽光もそれにかかっているが、接近戦もできるので問題なく戦っている。レイヴェリックはせいぜい己の身を守ることしかできていない。
「全く、なんで対策の一つや二つ講じないんだよ……」
「いやもう本当に、すみません」
 ジャミングは外に出る魔力の流れを乱す程度の効果しかないので強化はできる。しかし、アークはかなり弱体化されている。
 なので今はアークに取り付けてある切っ先両刃の刃に氷を纏わせ、攻撃力とリーチを上げてある。現状のリーチは大体普通の剣の長さ、1m弱ぐらいだ。この氷をまとわせる魔法は先ほど言った"装雷"の亜種、"冷域"である。詠唱は"装雷"同様短く"六華散り乱れよ"だけである。今回は時間もなかったので紋章のほうを使った。
 この刃の周りに広く発生している青い光がその魔法の効果範囲であり、空気中の水蒸気が凍っていくことからどれほど冷たいのかがよくわかるだろう。
 アークは私の精神と疑似融合しているので、外に魔力を放出せずにこの魔法に魔力を送りこめることができる。この魔法は氷属性の特性、停止の能力を付加させてあるので切られたらその部分から末端へと向かう電気信号だけでなく、魔力の流れも一時的に停止させる。さらには流血すらも止めている。
 しかしながら、陽光に殺すなと言われてあるので、心臓などといった重要な内臓器官の動きは止まらないようにしてある。面倒な制御だ。一思いにコロサセロ。
 ちなみに雷であると一時的に超高速攻撃が可能となっている。焔は範囲攻撃だ。
「あいつから倒せ!」
「俺からかよ……下種が」
 確かに私以外敵を戦闘不能にしていないのでそのほうが効果的だが、ストレス溜まり気味の私はかなり危険だ。そんなにも私の周りに近づくと――
「氷罪――冷宮」
 ――火傷ではすまないぞ。
 "冷域"の第二次開放、一定範囲内にあるものを分厚い氷に閉じ込める。私のこういう魔法には当然のことながらこのような段階がある。
 これら装纏系の魔法は大体三段階まで作ってある。今回の効果範囲は半径二メートルほどだ。停止の能力を駆使して生命活動も停止させてあるからこのように呼吸停止になったとしても死にはしない。ただ、生き返らせるには活性の能力のある焔属性の魔法が必要であり、活性の能力以外使うと悲惨なことになる。例えばナニが不能になったり。
 この攻撃で行動不可能になったのは3人、私はすでに半分も蹴散らしているということか。
「リヒト、少しお願いがあるんだけど……エルのほうにも行ってくれないかな? ここは僕らが何とかするからさ」
「面倒だな……あと3人以上片づけてから行く。というわけでコウ、それ貸せ」
「これ? じゃあ僕はどうやって戦えばいいのさ?」
「……氷罪――冷宮」
 氷で剣を生み出す。圧縮がひどいので固さだけで言ったならあの木刀も上回るが、当然刃引きをしているので切れないうえ、冷たさも除去しているのでずっと持っていてもたぶん凍傷にはならない。"冷域"はこういうこともできるから便利なのだ。他のものではこういうことはできない。
「これを使え。少しの間、頼む」
「……わかったよ……ん」
 陽光は氷の剣に魔力を流し込み、同調した。それを確認した私はその剣との魔力回路を切断する。陽光の木刀に私の血を付着させた。
 これからする行為はいつかやらなければならないことなのであるが、私は他人にやることを絶対にお勧めしない。この行為は私だからこそ意味を持てる行為であり、他者には不可能とは言わないが、それでも何の利点もないと言い切れる。
「何をするかわからんが、させん!」
「――そんなこと、させないよ!」
 敵は後ろに下がった私が出す不穏な空気を感じ取ったのか、またもや私に向かってきた。今の私は彼らに対処することはできない。
 しかしそれらの攻撃を全て陽光が受け止める。陽光の特殊能力と言えるもので、護衛対象ありの状況で、唯只管に守るという状況になるとほぼ全ての能力がExまで飛躍的に上がる。いつもこうであるならよかったのにと常々思うのは何も私だけではないはずだ。
 まあせっかく時間を稼いでくれているのだ。さっさと始めよう。あとレイヴェリック、戦え。

 
 
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