第十一話
「異能、発動 後編」

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 前話までのことが私が起きる前日のことであり、やっと起き上がってつい最近食っては寝ての拷問生活(仕事はあり)から普通に行動することが可能になった私と陽光は副作用で今まで以上に強くなってしまったらしいレイヴェリックを含む主要な人々に捕まっている。
――回想完了。長いな。
 なおレイヴェリックの保有する魔力量は人が保有できる理論最高値を軽く上回ってしまっている。今まではぎりぎりだった。それについて隠さなければならなくなったと起きてすぐ愚痴られた。過ぎたことをどうしろと言うんだこの小娘は? 明日仕事できなくさせるぞ。主に腰痛で。
 それとは別にその日、私たちがこの世界ではじめて発動した"絶無の世界"(Unlimited Only-Road)は周囲に様々な影響を及ぼした。
 一例として救いようのない重病人――例えば末期癌患者、植物人間、果ては今死んだばかりの人が一瞬で回復するという怪奇(?)現象が起きた。半ば蘇生も含んでいるようだが、あくまで死に切っていないかつ天寿を全うしていない人が対象。それとは別に結構昔になくしたはずの腕がいつの間にか生えていたというのも聞いた。
 他に空を幻想種が舞ったり、冬であるために割かないはずの花が一夜のうちに咲き誇り、また一夜のうちに何事もなかったかのように元に戻ったりなど最低条件が本来起こり得ないことが起こりまくったらしい。
 とりあえずその日黄金の月が出たのに月見ができなかったのが非常に悔やまれる。せっかく知人から貰った秘蔵の酒を貯蔵して待っていたというのに。タイミングが悪すぎた。また"絶無の世界"(Unlimited Only-Road)が起きていた間、城から黒も含む虹色の光が出ていたらしい。
 またそれらのことをラ・ヴィエル教とある宗教が己の宗教が起こした奇跡、神の御業であると称して信者と寄付金を集めようとしている。で、どちらの信じる神が起こしたのかで今論争中。
 今街中を歩くと非常に俗世間に塗れた塵が見れて滑稽です。それ以前の問題として、神がそんなこと起こすわけがない。奇跡というのは常に(ry
 まあそんな世俗のことは正直どうでもよい。私に与えられている現状、大会議場での尋問をどうするかを先に決定しなければならない。
 それと陽光には余計なことを口走るなと釘を刺し、なおかつレイヴェリックには結界を張らせておいた。この世ではどこに目や耳があるのかわからないからな。
 アルフェードは……放置で。
「説明してもらおうか? どうして本来死ぬ運命のはずのレイヴェリックが生きているのだ?」
「死んでいないから生きている。それだけの話だ」
 それだけのことですよ? そんなこともわからないのですかこいつは?
「そんなことで納得できるはずがありませんわ! もっと明確な説明を要求します」
「……知人の似非神父の好物である泰●特製麻婆豆腐を食わせるぞ」
「それだけはやめてください」
 …………なぜ通じた?
 世界で繋がっているのだろうか?
 もしやゼル●ッチがこの地に来たというのか?
 ……有り得ると言える当たりが恐ろしい。あの好々爺が何をしているのか私が知るわけもない。アレを絶対的に空想の話だと言い切ることもできない。なら可能性として言えるだろう。
 はぁ、そのうち練●の守護者やうっかりあくまも来ていそうだな。
「はぁ…………」
「ため息をついても良いから余らでも納得のいく説明してもらいたい」
 おいしい紅茶がないのでやる気が400減少している。その上アレの余韻がまだ残っているので倦怠感がぬぐい切れておらず、体は常にエネルギーを求めている。
 というわけで甘いものをよこせ屑ども。貴様らの価値は今それほどしかない。
「とりあえずそうだな……たぶん今回は…………ケル、あの日あの時あの場でどんな異常があった? 分かっている限りでいい。言え」
「たしか……膨大な魔力、いえ力の収束と発散の同時発現、それら全てに指向性がなく、それでいて全てが一つに向かっているのを確認しました。
 余りに強大な力のせいであの場にいたすべての人がすぐに気絶しましたよ」
「フム……矛盾した現象か。残滓からして、となると……」
 本当に世界の全てを記録しているとある無限書庫の閲覧可能文献を踏まえたうえであの時起こったと考えられる現象に近しいものを探る。
――――該当件数:2000件。
 毎度のことながらふざけた件数だよな。一つ一つ確認している私の身にもなってもらいたいものだよ。ざっと見だが。
 さらにその中で夢物語、空想だけと謳われるものを篩にかける。何せ現象の原因が"絶無の世界"(Unlimited Only-Road)だ。字面どおり無限にしてたった一つの未来、故に何もない世界なのだ。何が起ころうとも不思議なことはなく、むしろ何も起こらない方がおかしい。
 私に残る数少ない記録の断片と与えられた情報よりさらに選別する。
「――あ、と……
 ゼイル・オルフェデンス、変人ゼイルの魔力共振理論と二物質間の魔力交感時における力場干渉及び魔力増減の考察レポート、ボトムズ・アーヴィンの世界結合時における多干渉性力場発生説、それから誰が書いたのかは知らないが世界の抑止力に関するレポート、知っているか?」
「何とマイナーな所から……名前だけならほとんどの魔法使いが知っているのではないですか? 出来たら世界を終わらせるほどの力を得るものとして有名です。
 ただ、中身を知っているほとんどいません。何せそれらは貴重な古書ですから」
「レイは知っているよな? それなりの接続権は手に入れているはずだ」
「接続権とは……まさか"アレ"への?」
「他に何がある? というわけで説明しろ。俺は何か胃に詰めてくる」
 隣で眠りこけている陽光は放置し、私はいったん近くの食堂に向かった。何をしても、感覚を遮断しても空腹感が残り、どれほど寝ても睡眠欲が身を蝕む。今もそうだ。
 それから約三十分後のこと。説明が終わるころ合いだろうと会議室に戻ったところ、案の定終わったところだったので私はまた席に着いた。
「さて、レイの説明を大方理解していただけたと思うが、私たちが今回起こしたのはたぶんそれだ」
「何バカなことをおっしゃるのですか? あんなことがそう易々起きるわけがないでしょう。それもあんなにも大規模で。
 仮に起きたとしても、すでに世界は滅んでいるということになりますよ」
「ああ、滅んでいるよ。だからレイが生きているんだ」
「何故ですか? それを説明していただきたいのですが」
 多くの人がそれに賛同する。確かにあきれるほどバカらしい、現実味のない話であるが、だからこそアレは起こしたのだ。夢の、あるはずのない理論や仮説、全世界言うなら反物質の存在、熱力学を真正面から否定するような仮説というものを。
「場所を移したいのだが、良いか?」
「……あなたは、また私にこの結界を張れというのですか?」
「それが嫌ならあいつらをここから追い出せ。信におけない、その人となりを理解できない者に聞かせる安っぽい話じゃないんだ」
 外野ごときに与える情報はこれまでが全てだ。その上、そんなやつらにあそこまで否定されると潤滑に話を進めることができそうにない。今は虚仮脅ししかできないのだから。
「ふむ。ならば主ら、王の名において命ずる。今すぐこの場から去れ」
「王よ、何故ですか? あのような力を我らが理解していないと民に示しが――」
 ガギュンと何かが飛んだ。それをよく見ると私に最も近い席に座っていた人だった。ああ、ついつい投げてしまったか。全身複雑骨折は免れないな。
 後でレイヴェリックに骨折にすごく良く効く薬を調合させて持っていって無理やりでも飲ませてやろう。さもなければ仕事に支障が出そうだ。

 
 
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