第十一話
「異能、発動 後編」

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 螺旋する階段を登って閉ざされている私室に入り、ベッドに横たわる。
 完全防音設計のため外でどう喚かれても聞こえないのでもしも城内で誰かが私を探しているならば自動的に音がなる仕掛けを切っておく。今日からしばらくは仕事をする気はない意思の表れだ。
 それ以前にこれからしようとしていることはそんな音を鳴らすなんて仕掛けで起きるようなものではないためもある。
「――……フゥ」
 紅茶を淹れて飲む。読みかけの書物に眼を通す。眠っている間はずっと入手した情報の処理分類をしているのだから少しでも多くの情報を入手しておいたほうが良い。
 確かに私は無限と言える情報を知っている。しかし無限と言っても必ずしも全てであると言うわけではなく、さらに穴が無いというわけでもない。だから私は私である間にその穴を埋めていけるように情報を収集して言っている。
 ただ、情報を持っている私自身一体何の情報が無いのか理解していないので多分この情報は欠けているだろうと見込みをつけて収集するしかない。
 "数撃てば中る"
 嫌いな言葉だが、それは事実だ。否定する術は生憎無い。まあ少なくとも見当は付いているのでそれほど何でもというわけではない。
「――やっほー、あたしのお酒飲ましに来たよ〜」
 本を読んでいたら上から誰かが降りてきた。
 ちょうどこの上が屋上であるため、結界を破って侵入すれば誰でも入ってくることが出来る。ただし人間や魔獣、魔物の類が普通に入ってこようとするならば原子単位で分解されるような結界を、知り合いを総動員させて作っているので来る人はかなり限られている。
 で、今回来たのはそんなちょっと逝かれていると言うよりかなりアレなザル――むしろ底のない柄杓。片手にはどうしてあるのか二週間ほど問い質したい日本酒"大吟醸天浄天華テンジョウテンゲ"が握られている。前世で一本ン千万なんてはっちゃけた額をたたき出している一年に十本しか売りに出されない本当にプレミアのついている私を裏なせた数少ない日本酒だ。
 だからどうしてあんたがそれを持っている?
「酒への愛は世界の壁を超えるのよ!!」
 そんなアレに一言。
  超 え る な よ !
 ああもうお前抑止力に殺されとけ。別に抑止力でなくとも守護者でも構わない。何でもいいから今すぐ私の視界から消えてくくれ。現在非常に眠たいんだ。ああもちろん酒はここへの入室料としておいて逝け。
「未来に生まれるおいちい酒を残して逝けないわ! 何言っているの!?」
「テメ……はぁあ、もう良いや」
 本当にこいつ世界――じゃなくて酒が全世界から消失するまで死なないんじゃないのだろうか。簡単に想像できて末恐ろしいところがある。
「ところで、抑止力ってあの赤い弓兵? それとも金ぴかな傲慢? 白いお姫様? 皆話せばわかる人たちだったよ」
 OK、全員酒に溺れて溺死したようだ。この女は泥酔してからが本番だからな。知り合い連中でも最も宴会に呼んではいけない存在と決定されている。だと言うのにいざ宴会が始まるといつの間にか存在していやがる。どれほど注意しても、どれほど厳重に結界を張ったとしてもだ。
 ああ、酒への愛だけで容易く世界の壁を超えているのだからそれぐらい簡単か。
「で、一体何のようだ? 俺の機嫌は過去最高に悪いんだが、出来れば今すぐ(『 』に)還れ」
「ただ飲みに来ただけよ。おいしいつまみも持ってきたわよ〜」
 嫌味だよな嫌味だろ嫌味だの三段活用っと。前方の存在を自殺志願者に変更。
「ほぉ、それはグッドタイミングだったな……」
――――ガキン!
「でしょ――――"ガキン"?」
――ヒィィィィィィィ……
 私の機嫌は食べたくとも食べられないことにより過去に類を見ないほど悪くなっている。今からその苦悩より開放されようとしたときにちょうど珍味で美味なつまみを持ってきたのだから、私の普段からそれほど高くない沸点を精神は軽々と超えてしまった。それはもう、アレが酒への愛で時空の壁を越えるぐらい軽々しく。
 今手にあるのはアーク・ツァウベル。さらにフルドライブ状態にしてあり、既に私の魔力は通常の三倍に圧縮・精製され、身体の表層にある魔力回路から余剰魔力が緋色に輝いて放出している。
 二股の槍のカートリッジを納めている回転弾倉の下にある二つの漆黒の円柱は先ほどから高速回転をし、大気中のオドを吸収してマナへと変え、発生した静電気が大気に散っている。同様に石突の上にある同じ漆黒の円柱も高速回転し、上で作ったマナをさらに精製し、発生した静電気を大気に散らしている。
「ちょ、ちょっと待ってよ! どうしてそんなにも怒っているの!? 理由わかんないだけど!!」
「――――わかれ屑」(イイ笑顔で)
「その嗤顔すごく怖いからぁ!!」
 字が違った。
 白い柄に鮮血色の線が走り、刃の付け根から漆黒の翼が羽を開く。顔面に出た崩壊寸前の魔力回路はまるで刺青のように浮き出ている。元から赤みがかっていた瞳は別の色を孕んでいることだろう。
 この状態で何か魔法を使うと確実に部屋が跡形もなく崩壊するので使えない。故に――
――ドゴォ!!
「ァガ!――何この動き! 通常の三倍なんて卑怯よ!!」
「甘い! 今の俺は通常の27倍だ!!」
「三の三乗倍ですか! 一体どれだけ怒っているのよ!?」
――ガィン! ――ギャリギャリギャリギャリ!!
 アレを屋上まで蹴り上げる。そして二股の間に生まれた細く長い高圧縮魔力ドリルで常時発生型魔力障壁を刺し貫く。
 されどそこは仮にも■。薄い癖して無駄に固い障壁を完全に貫くことは出来ない。だが先が徹っただけで私には十分。
 二股の付け根にある、余剰魔力のせいで漆黒になった宝石がその内部にある魔法陣を展開させる。
「行くぞ! 白い悪魔も恐れをなした全力全壊コンビネーション!!」
 身体を駆け巡る通常の三倍の魔力がドリルの先に集中する。この世界でこんなことをするのは実を言うとこれが初めて。私の魔力制御力、収束力、圧縮力を考えると非常に使えるのだが、使えすぎて武器が保つのかどうかが不安だった。だが、今はそんなこと関係ない。
 ただ目の前に存在する"この世全ての拒食症"の恨み辛みその他諸々(仕事のストレスから使えない上司に対する不平不満など明らかに関係ないものまで)を葬り去ることが出来るのだったら、アークの三つや四つも惜しくは無い――!
(※アークはそんなにもありません)
「それ洒落で済まないからぁ!!」
――ガシャン!!
「元より洒落で済ますつもりは無いわ!
 ――エグゼキュート・カノン・A.C.S Stand By!」
「ヒギャァァァアアア!!」
 中心線は黒く、他は緋色に輝く極太砲撃の零距離射撃でまず相手の戦意を根こそぎ刈り取る。
「――て、まだ続くの!?
 ――チョ、イタイイタイイタイイタイ!!」
――ドドドドドドドドドドドドォ!!
 相手を空間ごと結果以内に閉じ込め、その結界の基点からシューターを打ち込みまくり、闘う力を二度と浮かばなくする。そして――これで最後の大締め。
「ぅ……ぁあ……もう、止めて……」
――キュイキュイキュイキュイ……
「ああ、テメエの人生ごと止めさせてやる」
 大気中に拡散している魔力を収束させる大規模収束砲、それをさらに集束させ、威力を高める。
 カートリッジをフルロードし、飽和魔力を無理やり従え、血を吐く思いで狙いをつける。
 最後に刈り取るは当然――その命。この次元崩壊一歩手前まで追い込んだ技で散らしてやる!
「終われ!
 ――――ワールド・ブレイカー・ジ・エンド!!」
「――――――――――――――――――――――ァッ!!」
 私の身が許す限り圧縮した集束型収束砲で結界ごと減衰率なしに貫く。これで当分還ってこないだろう。
 ちなみに無碍にするのも悪いと思って始まる前に盗んでおいた大吟醸はおいしく頂いてから安眠しました。
 砲撃撃つとスッキリするよ。
 癖になると悪魔決定だけど。

 後日、アークの整備で泣きました。

 
 
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