第十一話
「異能、発動 後編」

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 魔力を放出することに寄って空を飛ぶ陽光が薄く翠に光る弾幕の隙間を縫う姿はまるで待っているようにも見える。
 暇だったから作ってみた偽技符は意外と使えることが判明する一方、こんなことをしなければならない運命にかなりのあきれを覚える。技符は残り三枚、使い場所を考えないといけない。
「――ふぇあ!?」
「ち、これも避けるとなると……」
 残像のせいでちょうど私の前、画面上で言うなら下の真ん中あたりにきた陽光に太いレーザーのよう弾が襲い掛かる。その弾は先が円錐状であり、かつ着弾直前で楔弾の残像が消えるため、避けれないことはない。
 彼女は驚きながらも壊れたように笑いながらぎりぎり、掠る程度によける。本当にあの幸運というか、能力はどうにかならないことか。敵に回すと面倒で仕方がない。

――チャリ……ギャリリリリリィ!!

「純潔の鎖〜」
「笑いながら光属性中級補助魔法を無詠唱で使うなよ!!」
 酒のせいで色々な抑制が壊れているせいか、本当に加減がない。てか、グラス一杯の酒であそこまでようなんて弱いにもほどがあるだろうが。しかも次の日二日酔い(本人自覚なし)になる可能性が無意味に高いという。
 別に殴っても私は悪くありませんよね? 何をかは聞くな。
「だから酒飲ますなっていうのに!」
 魔力で作った囮に絡ませ避ける。あの魔法による捕縛は凶悪だ。その気になれば締め殺すことだって可能である。また鎖を叩きつけることによる攻撃も可能。
 鍛えるとこのような面倒なこともやってくれるからうっとうしい。そのうち因果の逆転を行う魔槍も作り上げそうだな本当に。冗談に聞こえないところが嫌だ。不可能ではないというところが憎らしい。
「……斬る」
 そう一言つぶやいて意識を高める。刀を持つ手に力が入り、魔力が別の何かを孕む。
「………………斬る!」
「にゃ! にゃにゃにゃ!?」
 ただひたすら本来切れない何かを斬るために意識を研ぎ澄まし、目的に集中し、過程を模倣したその刀はいともたやすく陽光の持つ魔力によって形成される剣を切った。
 斬魔閃と銘を打たれたこの技は名のとおりのことしか出来ない。つまり本来切れるものは切れない斬撃しか放てないのだ。また極限の集中が必要なので五発中二発は失敗する。使えるかと言われたら使いにくい。
「どっかーん!」
「はっ、冗談!」
 前触れも無く今までいた場所が爆発する。事前に眼には見えないほど小さい爆発物、ここではきっと同種の魔法を空間に大量に撒き散らしたのだろう。しかし眼には見えなくとも私の耳にはしっかりと聞こえていた。
 だから寸前、圧縮して一つの強力な爆弾するその一歩手前で避けきることが出来た。
「――踊れ踊れ踊り狂え
 ――星光より創られし剣の舞踏
 ――幾万もの光条描き
 ――紅の華咲かせよ」
 詠唱魔法が来た。しかも光属性と火属性の複合属性魔法で、大量の槍を放つと言うものだ。星光と詠唱文でもある様にこの魔法は光属性にしては珍しく夜の方が威力が高い。また貫通性能が無いため刺さると抜く以外の方法が無い。しかも消え難い。
「――"星符・星降る夜"」
 一つ聞きたいことがあるとするならば、この魔法作ったの誰だ? 別に魔法としては有効だと思う。しかし、だからこそ魔法名が許せない。気持ちはわかってくれるだろう?
「――擬似融合開始
 ――術式干渉
 ――魔法装填――箇所右腕!」
 まあそう入っても擬似融合の卑怯には勝てないが。魔力波長や特性などを知っている相手だからこそ、その魔法を擬似融合で取り込むことが出来るという私のスペックに少し呆れ。別にあったばかりの相手でもすぐに取り込めるがな。
 あの魔法だけでは物足りないのでもう一つ加える。
「――術式追加"千の雷槍"
 ――装填」
 両腕が内部から焼けるような感覚に襲われる。幻痛で表情が歪みそうになるほど痛い。
 "装雷"の原型と言えるこの魔法武装化は正直言って肉体と精神面への負担が大きい。物質に自分のものでは無い非物質を内包させるのだから仕方が無いといえば仕方が無い。
 まあ何にせよ痛いだけなので耐えられないことは無い。後常時魔力を食われるぐらい。
「"星花鎚"」
 光属性初級の中距離魔法か。本来なら無詠唱で放たれると避けることなどキチガイなまでに難しいだろう。しかし魔法と融合し、本来人間であるその存在を精霊まで上げている今の状態では、避けることなどそうたいしたことではない。
「――――疾」
「うわ、早――いッ!?」
 右腕で殴れば燃える光槍が六発放たれる。左腕で殴れば雷迸る槍が伸びる。このような各魔法による特殊作用をほとんど無くし、ただ肉体の強化のみに重点を置いたのが"装雷"などといった属性付加魔法だ。
「"光刃・十二連"!」
「効くかよォ!」
 右腕を振った方向に複数の槍が発生し、今回はそれが盾となって我が身を守り抜く。まぶしい光が治まると同時に左腕を突くことで投げ槍が空を切り裂く。
「"氷弾・百七柱"」
 蹴り飛ばすと同時に時間稼ぎの初級魔法を大量に放つ。この術式融合は属性付加魔法ではない特性が存在する。いやつけることができなかったから削った機能だろうか。まあいい。その特性と言うのは属性が反発しない限り無条件で体内で魔法を融合させ、外に出すことが可能と言うことだ。即ち――――
「完成――"星天・雷火の軍勢"」
 陽光を囲うように雷と炎を纏った光の槍が出現した。威力はそれなりに加減してあるので問題ないが、明日は筋肉痛にさせてやるよ。
「じゃあな。いい夜を」
「ひぃぃぃあああ!!?」
 何かが無く音がした気がするが、槍が爆発する轟音でよく聞こえなかった。きっと鵺か何かだろうと見当をつけてその場を後にする。今回の先頭で発生している庭の修理費等においては陽光を酔わせた原因である者たちに払わせる。私は一文たりとも出すつもりは無い。
「用事があるから俺は出かける。そこの屍は部屋に叩き込んでおいてくれ。それからエル、ルージュ、ドゥアンその他大勢、遺書を書いて待てとは言わないが、それなりの覚悟はして置けよ」
「も、もしかして何かしらの刑罰があるのですの?」
「無いわけが無いだろ自殺志願者」
 返事は聞かずに空へと飛び立つ。兎に角今日は飲もう。

 
 
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