第十一話
「異能、発動 後編」

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 世界の様々な酒にあう珍味を食べつつ、煙草を吸う。
 煙草といっても身体に害のある一般的な煙草ではなく、精神安定、疲労回復などといった効果のある種々の薬草を配合したものだ。ニコチンなんてものは一切出しません。香りも悪くは無いです。
「ふぅ…………あ」
 のんびりしすぎて一体何のためにここに来ていたのかを忘れかけるところだった。なんだか日も昇ってきている。今までずっと飲み続け、騒ぎ続けてきていたのかと思うと気分的に微妙だ。
 別にこういうにぎやかな宴を横で見るのは嫌いじゃない。むしろ自分にあっている。だから苦にはならないんだが、やはり少し長すぎやしないか? ……別に問題ないか。
「さてはて……むぅ、やはりいないか」
 目的の人はいなかったのでその人と面識があり、話を通せそうな人に言伝を頼もう。
 で、あの人と面識があり、それなりに権力のある人と言えばやはり――――同じくアルスメギストスに勤めるアルフェードだろう。この人なら能力使って手に入れた相手の弱m、調べている過程で手に入れた交渉材料を有効に使い、きっと私の望んだとおりに脅h、お話ししてくれることだろう。間違いない。
 私が知っているとおりの彼であると言うのならば、しないことはない。
「アル、少し頼みたいことがあるんだが」
「んー? なにかな〜」
 存分に酔っているが、構わない。きっとアルフェードはそこまで記憶力が弱いわけじゃないから。酒に酔うと妙に誑しになるだけだから。だから問題ない。昔も朝起きたら隣で先々日あったばかりの女性が寝ていて吃驚したとか良く聞いたことがあるから。
「アルスメギストスで、最も腕の良い鍛冶屋を紹介してくれ。少し作りたいものがあるんだが、城に備え付けてある工房じゃちょっとばかし設備に不安があるんだ」
「ふぅん……りょーかい。はなしつけれたらてがみでほうこくするよ〜」
「ん、頼む。期日は……そこまで早くなくとも良い。材料を取りに行く時間が必要だからな。そうだな……大体来月辺りに返事を聞かせてもらえると行動しやすい」
「おっけー、まかしたまえ。いろよいへんじをもらうよぉ」
「あと、設備の方も詳しく教えてくれると有難い」
「だいじょーぶだって〜。しんぱいしなくてもうまくいくさぁ」
 むしろ行かせると思うので非常に不安。相手先が精神的に終わってしまうと使い物にならなくなってどうしようもなくなるんだが。まあそのあたりのことは絶妙なバランスでやるんだろうなぁ。
 とりあえず、見知らぬ人よ。冥福をあらかじめ祈らせてもらおう。
「さてと……おやノエル。あなたがこんなところに来るなんて珍しいな。それとも近頃は良く来るのか?」
「んー? いや、ただ来たくなったから来ただけだ。気にするなよ」
「わかっている。なんとなく聞いてみただけだ」
「ま、そうだろうな」
 ノエル――今この宴に来ている人の中で、人外も含めるので生物の中で最も医学に精通している人だ。そのためか、ありとあらゆる生物に対して一撃で必殺できる箇所を見抜く眼を持っている。魔獣等と戦い、死体を解剖し、研究していたらいつの間にか見えるようになったらしい。
 まあ一撃必殺と言っても神話に出てくるバロールの魔眼のような直接相手に死を与えるような物騒なものではなく、そこに一定量のダメージを与えると死ぬということが自然とわかってしまう目である。
 どのような生物であれ、心臓を壊されては生きていられないと言うことだ。なら別に不思議なことでは無いだろう?
「近頃は何しているんだ? 全く噂聞かないぞ」
「あー、田舎でのんびり暮らしている。近頃面白い奴拾ってよ、そいつ弄りながら遊んでいるさ。あとは、馬鹿弟子が一人いたり……のんびりやっている」
「そうか……こちらはそろそろ忙殺されそうだよ」
「おいおい、大丈夫か? お前がそんなこというなんて珍しいぞ。ちゃんと休んでいるのか?」
「診てもわからないのか?」
「お前はお前だけで一種の特殊生物になっていやがるからわかりにきぃんだよ。ちゃんと診ないとどうこう言えねえ。医者が適当なこと言えるかよ、あほう」
「そうか……そうだったな」
 この人にはやるか、やらないかの二択しかないのだった。だから適当にこなすなんて言うことはなく、やる以上完璧を目指している。依頼を請けてもらえたなら後は安心できる人なのだが、その仕事を請けてもらえるかどうかが問題となっている。
「というわけで診察させろ」
「謹んで遠慮させてもらう。こう見えても自分の体調管理は出来ているから問題ないんだよ」
「そうだろうな。日常的にぶっ倒れる限界ギリギリまで自分を切り詰める生活しているから問題ないんだよな。今のところは。だけど、それいつか倒れるぞ」
「その前には休む。ちゃんと見切りはつけれることぐらいわかっているだろ?」
「わかっているからこそ心配になるんだよ。お前は昔っから倒れそうにならない限りやすまないからなぁ……」
 炒った豆を食べる。城では到底考えられない庶民の料理がここには整然と並んでいる。もちろん城で出すような高級食材を用いた料理も出ている。
 だが、それだけだとやはり味気ないのだ。確かにワインは貴族の酒なのかもしれない。しかしながらこの世の理としてワインだけが酒であるのではない。麦酒もウィスキーも立派な酒だ。十分に味わえる。
 何かを特別視するわけでもなく、何かをおろそかにするわけでもない。ただその違いを理解し、受け入れ、尊重し、楽しむ。そういった人がここにいるため、庶民の料理も高級な料理も同じように並べられているのだ。
 それだけの話。私としても其方の方がありがたい。のに、あの石頭どもは何かにつけて明確に境界線を引き、自分はその中でも特別な、希少な、上位の存在であると思いたがる。はぁ、頭痛い。
「というわけで俺にも効くような頭痛薬くれ。有れば胃薬も」
「どういうわけで言っているのかわからないが、無いと言おう。てか、お前に効くような薬なんてマジ毒薬になるんだけど、その辺わかっていっている?」
「…………だったか?」
「自分の肉体の丈夫さを怨むんだな」
「怨まねえよ。こんな体にしたのは自分だし、いくらそうせざるを得なかったと言えそうしたのも自分。行ったのが自分であると言うのならその責任は俺にある。
 確かにこの丈夫過ぎる体のせいで苦労することもあるが、これのお陰で俺は生かされている。生きることができている。だから、後悔はしない。怨むなんてできないのさ」
「なら少々のことぐらい我慢しろや」
「……この胃痛や頭痛が使えない周囲のせいであったとしても?」
「…………牛のたたき取って。後ワインお変わり」
「無視かよ……俺も古酒追加。それから春巻きもくれ」

 
 
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